COLUMN
#土木インフラの仕組み

道路はどう作られているの?アスファルト舗装の仕組みと構造
2025.6.30
目次
私たちが毎日のように歩き、車で走る道路。
その足元に広がる「アスファルト舗装」は、当たり前の存在として見過ごされがちです。
しかし、その道路がどのように作られているのか、実はほとんど知られていません。
道路には複雑な「構造」があり、表面だけでなく地下にも緻密な工夫が施されています。とくにアスファルト舗装は、都市の快適性や安全性を支える重要なインフラです。
本コラムでは、道路の仕組みや構造、アスファルト舗装の工程や素材の特徴、そして近年進化を遂げている舗装技術についてわかりやすく解説します。何気ない道路の下に隠された、土木技術の奥深さに触れてみましょう。

そもそも道路とは? ― 私たちの暮らしと道路の関係
道路は「通り道」以上の意味を持つインフラ
道路とは、単に人や車が通るための空間ではありません。私たちの暮らし、経済活動、地域の発展を支える基盤として、大きな役割を担っています。
国道や県道、市道といった分類にかかわらず、すべての道路は計画段階から「どのような役割を持たせるか」「どのように作るか」が綿密に設計され、周囲の環境や交通需要に応じた「構造」が考えられています。
例えば、都市部では通勤や物流がスムーズに行えるよう幅広く舗装された道路が必要とされます。一方、山間部や農村部では、降雨対策や斜面の安定も視野に入れた構造が求められます。このように、道路は地域特性を反映して「作る」必要があるのです。さらに、景観や安全性にも配慮して作られる道路設計は、住民の生活満足度にも直結します。
アスファルト舗装が主流になった理由
現在、日本国内で最も多く採用されているのが「アスファルト舗装」です。道路の90%以上がアスファルトを使用して作られており、その理由は施工性の高さ、コストの安さ、そして補修のしやすさにあります。
アスファルト舗装は、砂や砕石などの骨材とアスファルトバインダーを加熱混合し、それを現場で敷いて転圧することで完成します。舗装された道路の表面は滑らかで走行音も抑えられ、快適な移動が可能になります。また、アスファルトは黒いため、熱を吸収しやすく、冬場には路面凍結のリスクを軽減する効果もあります。
道路の構造は「見えない工夫」の集まり
私たちが目にしているのは、道路構造の一部にすぎません。
アスファルト舗装の下には複数の層が重なっており、これらが荷重を分散し、地盤への負担を減らす役割を果たしています。舗装の構造は、耐久性・排水性・地盤の安定などをすべて考慮して設計されるため、見えない部分にこそ技術が詰まっているのです。
とくに重要なのは、水の侵入を防ぎつつ、表面にたまった雨水を効率よく排水する設計です。構造が不十分だと、アスファルトの下に水が溜まり、舗装が浮いたり割れたりして道路寿命が大きく短くなってしまいます。そのため、「作る」段階でしっかりと地盤改良や路盤整備を行うことが重要です。
道路の構造を分解してみよう ― 表面から地盤までの断面図
「道路」は層でできている?断面で見る構造のひみつ
私たちが見ている道路の表面は、実は全体のごく一部にすぎません。道路は複数の層で構成されており、それぞれに役割が与えられています。この多層構造を理解することは、「なぜ道路が壊れにくいのか」「なぜアスファルト舗装が主流なのか」といった疑問を解くカギになります。
道路の基本構造は上から順に、「表層」「基層」「路盤」「路体(土工部)」の4層に分かれています。表層と基層はアスファルト合材で作られ、路盤には砕石などの材料が使用されます。さらにその下には、道路全体を支える地盤、つまり路体が控えています。
このような構造をとることで、車両の荷重や振動が地面に分散され、道路全体の耐久性が向上します。ただし、地域の地質や利用目的によっては層の構成や厚さが変わるため、道路を作るときには柔軟な設計が求められます。
アスファルト舗装の層構造とは?
アスファルト舗装に使われるのは主に「表層」と「基層」の部分です。表層は車両が直接走る部分で、耐摩耗性・滑り抵抗性・排水性などが求められます。そのため、粒度が細かく、平滑性に優れたアスファルト合材が使われます。
一方、基層はその下に位置し、主に荷重分散の役割を担います。こちらには粗い骨材が多く含まれるアスファルト合材が使用され、強度重視の構造となっています。 さらにその下には「路盤」があり、舗装構造全体を支える重要な部分です。ここではクラッシャランや粒度調整砕石などが用いられ、荷重の最終的な分散や排水を補助します。
より良い構造を作るためには、各層の設計精度と材料選定が不可欠です。
「作る」前に考える:地盤条件と排水性の重要性
舗装された道路が長期間にわたって性能を維持するには、路体や路盤の設計が極めて重要です。とくに日本のように雨が多い地域では、排水性を確保しないと水がアスファルト舗装の下に浸透し、舗装構造全体を劣化させてしまいます。
そこで採用されるのが、透水性舗装や排水性舗装といった新しい舗装技術です。これらは雨水を地中へとスムーズに逃がす構造を持ち、路面の水たまりや滑りのリスクを大幅に軽減します。
また、道路を作る際には、地盤の固さや支持力をしっかりと調査し、それに応じた構造設計を行うことが不可欠です。たとえアスファルト舗装が完璧に仕上がっていても、その下の地盤が不安定であれば、陥没やひび割れが起こりやすくなってしまいます。つまり、道路は「作る前」から地盤条件を読み解き、構造を最適化する必要があるのです。
アスファルト舗装の「作る」工程を知る
舗装工事はこう進む!全体の流れを把握しよう
道路を作ると一口に言っても、その工程は意外に多岐にわたります。とくにアスファルト舗装の場合、設計・準備から施工・仕上げまで、一連の流れが綿密に計画されて進行します。
まずは、現場調査と設計から始まります。交通量、地盤条件、排水計画などを考慮して、最適な舗装構造を決定します。その後、既存の路面を掘削し、地盤を整える「路体整備」が行われます。
次に、砕石を敷いて路盤を形成し、転圧によって安定させます。さらに、その上にアスファルト乳剤(接着剤の役割)を散布し、アスファルト合材を敷き詰め、ローラーでしっかりと締め固めます。これらの工程を通じて、ひとつの道路が作られていくのです。構造ごとに手順が異なるため、適切に作る力が試されます。
アスファルト合材とは?道路の品質を左右する材料の正体
舗装に使われるアスファルト合材は、道路の耐久性と機能性を左右する非常に重要な素材です。アスファルト合材は、「骨材」と「バインダー(アスファルト)」を高温で混ぜ合わせたもので、温度管理が重要です。
骨材には細かい砂や砕石が使われ、それぞれ粒度や強度に応じて配合比率が決められます。粒が揃っていないと、舗装表面に空隙ができてしまい、耐久性や排水性に悪影響が出ます。また、アスファルトバインダーは骨材を結びつける接着剤の役割を果たし、気温や交通荷重に応じて種類を使い分けます。
これらの素材は、舗装の性能を左右する「見えない品質」を作る要素でもあります。道路の構造を支える合材づくりは、まさに土木技術の根幹です。
天候や気温が舗装の成否を左右する
アスファルト舗装は、天候と気温に非常に左右される舗装工法です。
たとえば気温が低い日はアスファルト合材の冷却が早く、施工前に硬化してしまう恐れがあります。逆に夏場は舗装直後に柔らかさが残り、交通荷重によって変形が起こるリスクもあります。
また、雨天時には施工自体が難しくなります。アスファルトは水に弱いため、濡れた路面に敷いても密着せず、舗装が剥がれやすくなってしまいます。そのため、施工時期の選定や当日の天候判断は、現場の管理者にとって非常に重要な判断材料となります。
舗装をしっかりと仕上げるには、適切な天候条件を見極める力と、構造に対する深い理解が求められます。環境に応じた方法で道路を作ることが、長寿命化と安全性の確保につながるのです。
舗装の進化 ― 近年注目される新技術と課題
透水性アスファルト舗装がもたらす新たな価値
近年、都市部を中心に注目を集めているのが「透水性アスファルト舗装」です。これは、アスファルト合材に空隙を多く含ませることで、雨水を舗装内部に浸透させ、地中へと逃がす仕組みを持っています。従来の舗装では表面に水がたまりやすく、スリップや水はねの原因となっていましたが、透水性舗装はそれらの課題を解決してくれます。
さらに、都市型水害の軽減にも寄与します。降雨時に大量の水が道路を流れ下るのではなく、舗装内部から地中に分散されることで、下水道や排水溝の負荷を抑えるのです。これは単なる「道路」の機能を超えた、防災インフラとしての構造的進化ともいえるでしょう。
ただし、透水性舗装にはデメリットもあります。目詰まりによる機能低下や、通常のアスファルトよりも施工コストが高くなるといった課題も無視できません。
再生アスファルトと長寿命舗装の実現
アスファルト舗装の技術は作るだけでなく「再利用する」方向へも進化を遂げています。とくに注目されているのが、再生アスファルトの活用です。これは既存のアスファルト舗装を削り取り、再加熱・再配合して新たな舗装材として再利用するというものです。
この方法は、原材料の節約と廃棄物の削減に貢献するだけでなく、経済的にも大きなメリットがあります。実際に多くの自治体では、再生材の使用比率を高めることで持続可能な舗装構造の構築を目指しています。
また、ポリマー改質アスファルトなど、耐久性を高める新素材も登場しています。これらは通常のアスファルトよりも温度変化や交通荷重に強く、結果として舗装の寿命を延ばすことが可能です。道路の「構造」を改良して長く使えるように作ることが、メンテナンス負担の軽減にもつながります。
DX・ICT技術で変わる舗装の「作り方」
ICTやデジタル技術を活用した舗装のスマート化も、近年の大きな進歩のひとつです。たとえば、施工中のアスファルト温度や敷設厚をリアルタイムで計測するシステムを導入することで、品質のバラつきを防ぎ、構造の信頼性を高めることができます。
ドローンや3Dスキャナによる路面計測も進んでおり、設計から施工、検査までの工程を一元的にデータで管理することが可能になりました。これにより、「作る」工程の効率化と省人化が進んでいます。
また、AIやIoTを活用した道路モニタリングシステムも登場し、舗装の劣化を事前に検知できる仕組みが整いつつあります。これらの技術は、単なる施工の効率化にとどまらず、「道路」という社会インフラの信頼性をより高めるための重要な要素になっています。今後は、誰が、どこで、どう作ったかを見える化する取り組みもさらに広がっていくでしょう。
道路舗装のメンテナンスと再舗装のサイクル
道路は「作って終わり」ではない
道路は完成した時点がゴールではなく、むしろスタートです。とくにアスファルト舗装は、時間の経過とともに劣化し、定期的な点検と補修が不可欠になります。どれほど優れた構造で道路を「作る」ことができても、メンテナンスを怠れば、舗装の表面にひび割れや陥没が発生し、安全性が大きく損なわれてしまいます。
アスファルトは温度変化や車両の荷重、雨水の浸透などさまざまな外的要因にさらされます。そのため、施工直後は問題がなくても、数年後には目に見える劣化が始まることも少なくありません。こうした背景から、道路には「維持管理」というもう一つの重要なライフサイクルが存在しているのです。 道路を作る技術と同じくらい、維持する仕組みを作ることもインフラ整備の柱となっています。
よく使われる補修工法とそのタイミング
舗装の補修方法は劣化の程度や構造の状態によって異なります。軽度のひび割れであれば、充填材でクラックを埋める「シーリング補修」が行われます。中程度の劣化には「表層打ち替え」や「オーバーレイ」と呼ばれる方法が用いられ、既存のアスファルト舗装の上に新しい層を重ねることで補強します。
重度な損傷や路盤の沈下が見られる場合は、舗装全体を剥がして地盤から再整備する「全面再舗装」が必要になります。いずれの方法も、舗装の構造を的確に把握したうえで最適な対応を選択することが大切です。
こうした補修の判断は、専門の点検技術者や道路管理者によって定期的に行われています。最近では、AIを活用して路面の劣化を自動検出するシステムも開発されており、より効率的で精度の高いメンテナンスが可能になってきています。
道路の状態を見える化し、補修方法を適切に選んで作ることが、今後のインフラ維持においてますます重要になります。
交通を止めずに「作り直す」工夫
補修や再舗装の工事は、周囲の交通に影響を及ぼすため、計画とタイミングが非常に重要です。とくに交通量の多い幹線道路では、夜間施工や時間帯を分けた分割施工が一般的に行われています。
また、最近では「プレキャスト舗装」といって、あらかじめ工場で製作した舗装パネルを現場に運び、そのまま設置する方式も登場しています。これにより、作業時間の短縮と騒音の軽減が実現され、住民やドライバーへの影響を最小限に抑えることが可能です。
こうした技術は、限られた時間と空間の中で、いかに効率よく道路を作る(あるいは作り直す)かという工夫の積み重ねでもあります。維持補修の場面でも、「作る力」は重要なキーワードなのです。
まとめ
普段、何気なく歩き、走っている「道路」は、単なる黒いアスファルトの面ではありません。その下には、地盤から表層まで多層にわたる「構造」が広がり、車両の重さや気候条件、水の侵入といったあらゆる要因に対応できるよう、緻密に「作る」工夫が施されています。
とくにアスファルト舗装は、材料の選定から施工の工程、さらには温度や天候への配慮に至るまで、細かな技術の積み重ねで成り立っています。そして完成後も定期的な点検や補修を経て、その機能を維持し続けているのです。
また、近年では透水性舗装や再生アスファルト、ICTを活用したスマート施工など、新しい技術が次々と登場し、道路の「作る」方法そのものが進化しています。これらの取り組みは、快適さや安全性だけでなく、環境負荷の軽減や持続可能な社会の実現にも貢献しています。
私たちは普段、舗装された道を当たり前のように使っていますが、その「当たり前」は多くの人の知恵と努力、そして見えない技術の上に成り立っているのです。次に道路を歩くとき、足元に広がるアスファルトの“下”にある世界に、少しだけ思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。
SSFホールディングスの能力開発校ADSでは、次世代の土木技術者を育成します。現場で活躍できる人材の輩出を通じて、業界全体の発展に貢献いたします。 職場見学も受け付けておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
