ICT施工ってなに?いま注目の“スマート土木”メリット・デメリット
#土木の未来を考える

2025.6.23
目次
近年、土木業界では「ICT施工」という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。
ICTとは情報通信技術のことを指し、これを測量や設計、施工、そして管理といった各工程に活用することで、作業の効率化や省人化を図る新しい施工手法が誕生しています。人手不足や高齢化が進む建設・土木分野では、こうした技術の導入が急務となっており、国も「i-Construction」の名のもとでその普及を後押ししています。
まさに“スマート土木”の象徴ともいえるICT施工。
本コラムでは、その定義や具体的な技術、メリット・デメリット、そして現場の声を通じて、ICT施工の今と未来を詳しくひもといていきます。
ICT施工とは何か
ICT施工の定義と背景
ICT施工とは、測量・設計・施工・管理といった土木工事の各工程にICT(情報通信技術)を取り入れることで、現場作業の効率化や精度向上を図る手法です。具体的には、ドローンによる三次元測量、建設機械の自動制御、クラウド上での施工管理、さらにはBIM/CIMとの連携による一元的な情報共有などが挙げられます。
このICT施工が注目される背景には、建設・土木業界に共通する深刻な課題があります。それは、人手不足と技術継承の壁です。熟練作業員の高齢化が進み、若年層の担い手が少ない現状では、これまでのように「経験と勘」に頼る現場運営には限界があるのです。
こうした課題に対応するために、国土交通省は「i-Construction」政策を掲げ、ICTの積極的な導入を支援しています。特に公共土木工事においては、発注者側が3D設計データを提供し、それをもとに現場でのICT施工を実施するケースが増えてきました。
施工の標準化と効率化を両立させるこの取り組みは、いまや“スマート土木”の象徴といえる存在となっています。
どんなICT技術が使われているのか
ICT施工には、さまざまなデジタル技術が導入されています。
なかでも注目されているのが、ドローンを使った三次元測量です。これにより、従来は数日かかっていた現地測量が、数時間で高精度に完了できるようになりました。地形データをデジタル化することで、その後の設計・施工にもスムーズにつなげることが可能です。
また、建設機械にもICTが導入されています。
MC(マシンコントロール)やMG(マシンガイダンス)と呼ばれる技術を活用することで、ブルドーザーやショベルカーが自動で掘削や整地を行うことができるようになっています。これにより、たとえ経験が浅くても、オペレーターが安定した施工品質を保てるようになってきました。精密な操作を機械がサポートしてくれるため、作業のばらつきが抑えられ、現場の信頼性が一段と高まります。
加えて、近年の現場ではクラウドやIoTを活用した管理システムが普及しつつあり、作業の進行状況や資材の搬入状況、各種の作業記録などがその場で即時に共有されるようになりました。こうした変化によって、土木工事の“見える化”が一気に進み、現場の責任者だけでなく、設計者や発注者との間でもスムーズな情報交換が可能になっています。
さらに、BIM(Building Information Modeling)やCIM(Construction Information Modeling)といった三次元モデルとの連携も進展しており、これまで設計と施工の間で起きがちだった行き違いや手戻りを減らす役割も果たしています。
プロジェクト全体を一元的に把握できることで、施工全体の流れが見通しやすくなり、無駄やミスの削減にもつながっています。
ICT施工がもたらすメリット
施工精度の向上
ICT施工の最大の利点のひとつは、施工精度の飛躍的な向上です。
従来の土木現場では、作業員の経験や勘に頼る場面が多く、どうしても施工のばらつきが生まれていました。しかし、ICT技術を活用すれば、設計段階で作成された三次元データをそのまま施工に反映することが可能になります。
たとえば、マシンガイダンス機能を搭載した建設機械は、ミリ単位の誤差で掘削や盛土を行うことができます。これは、土木工事の品質向上に直結し、再施工や補修の手間を大幅に減らす結果にもつながっています。
効率化と省人化
ICT施工は、工事現場の効率化と省人化にも貢献しています。
ドローンによる測量や、建設機械の自動制御などにより、作業時間が大幅に短縮されるだけでなく、少人数でも現場を回せる体制が整います。
たとえば、従来10人で対応していた測量作業が、ICTの導入によりわずか2〜3人で対応可能になることもあります。これにより、人手不足が課題となっている土木業界にとっては、大きな助けとなるのです。また、現場での無駄な動きや作業の重複が減ることで、工期の短縮にもつながり、コスト削減の観点からも大きなメリットが得られます。
労働環境の改善
土木施工は、天候や地形に左右される過酷な労働環境が課題とされてきました。
しかし、ICT技術の導入によって、その状況は少しずつ変わりつつあります。重機の自動運転や遠隔操作の技術により、作業員が危険な場所に立ち入らなくてもよくなり、安全性が向上します。
また、作業の効率化によって長時間労働が減少し、労働環境そのものが改善される傾向にあります。こうした変化は、若手人材や女性の参入ハードルを下げる要因にもなっており、「土木=きつい・汚い・危険」という旧来のイメージを覆すきっかけにもなっています。
品質管理のデジタル化
ICT施工では、現場で発生するさまざまなデータをリアルタイムで記録・蓄積できます。
写真や計測データ、作業ログなどが一元的に管理されるため、品質管理の透明性が飛躍的に高まります。 このような記録は、将来の維持管理や検査の際にも役立ちます。たとえば、ある工区でどの時点にどんな施工が行われたかを、デジタル上で即座に確認することができ、トレーサビリティが確保されます。
これにより、発注者や住民に対する説明責任も果たしやすくなり、社会的な信頼性の向上にもつながるのです。
環境面でのメリット
ICT施工の導入は、現場の効率化だけでなく、環境への負荷軽減にも大きく貢献しています。
たとえば、設計段階から3Dデータを用いることで、必要な資材の量を正確に見積もることができ、余分な資材の調達や廃棄を防ぐことが可能になります。
また、ICT建機の自動制御によって、無駄な稼働が減り、燃料消費量も抑えられるようになりました。これにより、CO₂排出量の削減にもつながっており、土木業界が環境配慮型の施工にシフトしていく上で大きな一歩となっています。
こうした取り組みは、SDGsの観点からも今後さらに重要性を増していくでしょう。
ICT施工の課題とデメリット
初期コストと導入障壁
ICT施工の導入は魅力的ではありますが、決して「万能」ではありません。
特に最初の障壁となるのが、導入コストの高さです。
ドローンや3Dスキャナ、ICT建機、管理用ソフトウェア、通信設備など、ひと通りのICTインフラを整えるには多額の投資が必要になります。 大手のゼネコンであれば、これらの設備投資に対応する余力がありますが、地域の中小規模の土木施工業者にとっては大きな負担となりがちです。補助金や助成制度があるとはいえ、「初期投資に見合う効果が出るのか?」という不安の声も少なくありません。特に単発の小規模工事では、ICTの恩恵が見えにくいケースもあります。
専門人材の不足
ICT施工を円滑に進めるためには、機器を操作・管理できるスキルを持った人材の存在が欠かせません。ところが、現場ではそうした専門人材が圧倒的に不足しているのが実情です。
特に長年、アナログ中心の方法で土木工事を行ってきた熟練技術者にとっては、ICT機器の操作はなじみにくく、「画面の前に座って仕事をする」というスタイル自体が抵抗感を生むこともあります。一方で、若手人材の確保も十分に進んでおらず、「人も育たない、教える側も困っている」という二重の課題を抱えています。
通信インフラと現場のミスマッチ
ICT施工の多くは、通信環境に依存しています。
クラウドを通じたデータ共有や、GPSによる位置管理など、リアルタイムでのやり取りが基本です。しかし、日本の土木現場の多くは山間部や地下、海辺など、通信インフラが整っていないエリアに位置しています。
そうした場所では、リアルタイム通信がうまくいかず、ICT施工の本領を発揮できないことがあります。オフラインでもある程度対応できる仕組みは整いつつありますが、「現場で測量→事務所に戻ってデータ同期」という非効率な運用を強いられることも少なくありません。
通信と現場の環境が一致していないことは、ICT活用のボトルネックとなっており、今後の施工技術の普及において重要な課題といえるでしょう。
技術への過信とヒューマンエラー
もうひとつ忘れてはならないのが、ICT施工への「過信」によるリスクです。
自動化や機械制御が進んだことで、人の判断や確認作業が軽視されがちになるケースがあります。たとえば、ドローンによる測量データに誤差があったり、ICT建機の設定ミスがあった場合、それを見逃してしまうと、施工そのものに大きな影響を及ぼす可能性があります。
結局のところ、いかにICTが進化しても、最終的な確認や判断は「人の目」が欠かせません。むしろ、技術が複雑になるほど、それを理解し、的確に運用する力が求められるのです。ICT施工の成功には、「技術と人」のバランスをいかに保つかが鍵を握っています。
現場の声から見るICT施工の実態
導入に成功した現場の事例
ICT施工はまだ比較的新しい取り組みですが、すでに多くの現場で導入され、その効果が報告されています。
たとえば、ある地方自治体が発注した道路改良工事では、ドローンによる測量とICT建機による自動施工を組み合わせることで、施工にかかる日数を20%以上短縮できたといいます。現場では、ICTの導入により作業員の配置も最適化され、無駄な待機時間が減り、作業効率が飛躍的に向上しました。
さらに、この現場では施工記録のデジタル化も進み、検査対応が非常にスムーズになりました。発注者や監督者とリアルタイムで情報を共有できたため、変更指示や確認事項もタイムラグなく処理され、現場のストレス軽減にもつながったと報告されています。
このような成功例は、ICT施工が単なる“先端技術”ではなく、実務レベルでも十分に効果を発揮する実用的な手段であることを示しています。とりわけ土木施工においては、精度や安全性、記録の確実性といった点が重視されるため、ICTとの相性は非常に良いのです。
導入が進まない現場の課題
一方で、すべての土木現場でICT施工がうまく機能しているわけではありません。特に中小規模の施工業者にとっては、機材やソフトを揃えただけで「はい、すぐに使える」というものではなく、現場での“使いこなし”に大きな壁があります。
実際に、「ICT対応の建設機械を導入したものの、オペレーターが操作できない」「ドローンはあるが飛ばせる人がいない」「データ管理の方法が分からず活用されていない」といった声も多く聞かれます。
特に高齢化が進んでいる企業では、新技術への理解や学習に時間がかかり、結果として“宝の持ち腐れ”になってしまうケースもあるのです。 また、ICT施工に必要な研修や教育の機会も、地域によっては限られており、「学びたくても学べない」という環境的な問題も存在します。このようなギャップは、国や業界団体による支援体制の強化が求められるポイントといえるでしょう。
ICT施工の未来と土木業界への影響
建設業全体のスマート化へ
ICT施工は、今や一部の先進現場だけの話ではありません。
国が掲げる「i-Construction」政策をはじめとして、「デジタル田園都市国家構想」などの大きなビジョンの中で、建設・土木業界のスマート化は全国的に進行しています。
これまでアナログ主体で動いてきた土木施工の世界に、ICTという新たな武器が加わることで、インフラ整備のあり方自体が変わりつつあるのです。たとえば、地方自治体では老朽化が進む道路や上下水道、橋梁などの維持管理にICTを積極的に活用しようとする動きが加速しています。 これらの取り組みは、単に施工の効率を上げるだけではなく、地域の課題解決にも貢献しています。人口減少が進む中で、限られた人員と予算でどう土木インフラを守るかという難題に、ICTの力が応えつつあるのです。
技術と人の融合が鍵
ただし、ICTの力だけですべてを解決できるわけではありません。
施工の場には、どうしても機械では対応しきれない判断や対応力、すなわち“人の力”が不可欠です。これからの土木施工では、ICTと現場力の融合こそが真の鍵を握ります。
そのためには、技術の進化に対応できる人材育成が急務です。
新卒者や若手社員にICTスキルを教育するだけでなく、現場のベテランたちにも新しい技術への理解と経験を融合させる機会をつくる必要があります。企業内研修やeラーニング、産学官連携による教育機関の活用など、多様なアプローチが求められています。 また、チーム全体で「ICT施工に取り組む意識」を共有することも重要です。機械任せではなく、施工の全体像を理解しながら、技術を使いこなせる体制が整ってこそ、真に“スマート”な土木施工が実現するのです。
今後、AIや5Gといった新たな技術との連携も進めば、土木業界の仕事はさらに高度化・効率化されていくでしょう。しかし、どれだけ技術が進んでも、現場を動かすのは「人の手」であることを忘れてはなりません。
地域社会との関わり
ICT施工の普及は、地域社会との新しい関係づくりにもつながっています。
たとえば、施工状況を可視化した3Dモデルや進捗情報を住民に公開することで、理解と信頼を得やすくなり、住民説明会などでも活用が進んでいます。 さらに、地元の高校や大学と連携して、ICTを活用した土木体験イベントを開催する動きも増えています。
こうした取り組みは、若い世代に「土木=スマートでかっこいい」という印象を与える効果があり、将来的な人材確保にもつながっています。
まとめ
ICT施工は、今まさに土木施工のかたちを根本から変えようとしています。ドローンや3次元測量、建設機械の自動制御、クラウドを活用した現場管理――これらのICT技術が連携することで、従来の土木工事では実現しにくかった効率性や精度、安全性が飛躍的に向上しています。
一方で、初期投資の大きさや専門人材の不足、通信インフラとの相性といった課題も少なからず存在します。技術に頼りすぎることで見落とされるリスクや、現場での“使いこなす力”の差も、現実的な壁として立ちはだかります。
それでも、日本の建設・土木業界が直面している人手不足やインフラの老朽化といった深刻な課題を解決していくには、ICT施工の導入は避けては通れない道です。効率化と省人化を両立し、未来の施工体制を持続可能なものにしていくために、ICTは強力な味方となるでしょう。
これからの土木施工に必要なのは、技術と人が協力し合う「ハイブリッドな現場力」です。最先端のICTを“道具”として使いこなしながら、人の知恵と経験が生きる現場づくりを進めること。それこそが、これからのスマート土木を築くうえで、欠かすことのできない確かな土台となるでしょう。
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