COLUMN
#土木インフラの仕組み

土木が支える情報インフラ|電柱構造と電線地中化の土木技術とは?
2025.6.30
現代社会は、インターネットや電話、テレビなど、膨大な情報インフラに支えられています。
こうした情報の通り道をつくり、守るのが、意外にも「土木」の仕事です。
特に電柱の構造や、電線の地中化といった分野では、土木技術が表舞台に出ることは少なくても、その存在がなければ社会機能は維持できません。
このコラムでは、情報インフラを陰で支える土木の役割に注目し、電柱構造の仕組みや電線地中化の最新技術、そして未来のまちづくりについてわかりやすく解説していきます。

情報インフラと土木のつながり
情報インフラとは?通信とネットの舞台裏
スマートフォンでSNSを使ったり、仕事でオンライン会議をしたり——私たちの日常は、目に見えない“仕組み”に支えられています。そのひとつが「情報インフラ」。けれど、その意味を正確に説明できる人は、意外と少ないかもしれません。
情報インフラとは、ネット回線や無線設備に加え、電柱、電線、地下ケーブルなど“物理的な構造”を含んだ社会の土台です。こうした構造があってこそ、デジタルな情報は安定して行き交うのです。
そしてこの基盤を築いているのが、私たちの暮らしに密接に関わる「土木」の技術です。都市を静かに支える土木は、実は情報社会の裏方でもあるのです。
情報を運ぶ「構造」をつくる土木技術
「情報インフラ」はITの分野だと思われがちですが、その通り道を整えるのは土木の役割です。道路を掘って管を通し、電柱を立て、必要に応じて地盤を補強する。どれも欠かせない作業です。
たとえば電柱。地上から見える部分以上に、地下にしっかり埋め込まれています。土の状態や周辺の構造物を考慮しながら、安全な基礎が築かれます。都市部なら、交差点の視界やバリアフリーにも配慮が必要です。
こうした調整や設計は、まさに情報インフラと土木の融合点。情報が「通る」には、まず構造がしっかりしていなければなりません。
見えないところにある土木の価値
私たちは、情報インフラの「見える部分」ばかりに目を向けがちです。でも、実は地下の管路や電柱の基礎といった“見えない構造”こそが、社会の安定を支えています。
最近では、電線を地中に埋める「電線地中化」も進み、情報インフラの“見えにくさ”はさらに増しています。地中化された情報インフラもまた、地表とは異なる構造設計を必要とします。地下にあるから安全とは限らず、構造的な工夫や保守のしやすさも問われます。
それでも確実に支え続けているのが、土木の力です。普段は気づかれにくいけれど、なくてはならない。そんな見えない価値が、私たちの社会を根底から支えているのです。
電柱の構造と役割
電柱の基本構造を知ろう
電柱と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。街中に無数に立ち並び、電線を支えている姿は見慣れたものですが、その中身を知る機会は少ないかもしれません。でも実は、電柱は「情報インフラの支柱」とも言える重要な存在です。
地上に見える部分のほかに、地下には1.5〜2メートルほど埋まっている構造があり、この“基礎”が電柱の安定を支えています。また、上部には「腕金(うでがね)」や「碍子(がいし)」が取り付けられ、そこに電力線や通信線、光ファイバーなどがバランスよく配線されています。たった一本の電柱でも、複数の役割を担っているのです。
地中にある「基礎構造」がカギを握る
電柱が安全に立ち続けるためには、地中の基礎構造が非常に重要です。たとえば、地盤が柔らかい地域ではコンクリート基礎を補強したり、杭を使ったりと、状況に応じて工法を変えます。こうした判断は、土木の専門的な視点があってこそ可能です。
加えて、設置場所は周囲の交通や建物との距離、他インフラとの位置関係も考慮されます。電柱は単体で存在するのではなく、常に他の構造物と“共存”しているため、干渉を避ける配置や角度の調整が必要になります。言い換えれば、電柱は情報インフラの交差点であり、土木的な調整力が問われる場面でもあるのです。近年では、電柱そのものをなくす地中化が積極的に検討されており、構造の選択肢も広がっています。
電柱の素材とその選び方(木・コンクリ・鋼)
素材についても工夫があります。昔ながらの木製電柱も一部には残っていますが、現在主流なのはコンクリート製や鋼製(鋼管柱)です。耐久性や施工性、重量の違いなど、それぞれにメリット・デメリットがあります。
たとえば都市部では、狭いスペースにも対応できるように軽量な鋼製が選ばれることが多く、逆に郊外ではコストパフォーマンスの高いコンクリート製が用いられることもあります。
素材の選定には、構造的な耐震性や耐風性だけでなく、将来的なメンテナンスのしやすさも影響します。場合によっては、景観や防災の観点から地中化へ移行する判断がなされることもあります。これらすべてが、情報インフラの安定運用と直結しているのです。
電線が通るしくみを支える土木技術
電線の種類と用途
電柱の上を走る電線。よく見ると、太さや高さが異なる線が複数張られているのがわかります。それもそのはずで、電線とひと口に言っても、役割はさまざま。電力線や通信線、光ファイバーなど、用途ごとに異なる種類の線が同時に使われているのです。
この複雑な構成が、私たちの暮らしに欠かせない情報インフラを形づくっています。しかも、それぞれの線はただ張られているわけではありません。張力、重量、風や雪への耐性などを考慮した、綿密な構造設計が必要になります。一方、地中化された電線では張力の問題はないものの、代わりに配管内の通気や保守性といった新たな課題が発生します。線1本、構造1本をとっても、決してシンプルなものではないのです。
架空電線を支える構造設計と張力計算
電線は、電柱から電柱へと空中を渡るように張られていますが、この“張り具合”が実は非常に重要です。緩すぎると垂れ下がってしまい、歩行者や車両にとって危険ですし、張りすぎれば切れてしまうリスクが増します。だからこそ、適切な張力を保つための計算と、構造設計が欠かせません。
風の強い地域では、電線が揺れないように防振器をつけたり、電柱の間隔を狭くすることもあります。こうした調整には、地形や地域の気象条件まで含めた、現場ならではの判断が求められます。見た目には単純に見える電線も、じつは土木の知見が詰まった“吊構造”の一部なのです。
そして何より重要なのは、これらの設計がすべて情報インフラの安定性につながっているということ。どれほど最新の通信機器を備えても、それを支える物理的構造が脆ければ、情報は届きません。
なぜ今「電線地中化」が求められるのか
電線地中化の基本と社会的背景
「電線地中化」とは、その名のとおり、電柱に張られていた電線を地中に埋設する取り組みです。最近では“無電柱化”という言葉もよく聞かれます。都市の景観を整える目的もありますが、それ以上に注目されているのが、情報インフラの防災性を高める手段としての価値です。
たとえば、台風や地震で電柱が倒れれば、電線もろとも情報網が寸断されます。しかし、地中に線が埋まっていれば、そのリスクをぐっと減らすことができます。実際、災害に強いまちづくりを掲げる自治体では、主要道路沿いから順に地中化を進める動きが広がっています。
地中に構造物をつくるとなれば、当然ながら土木の力が必要になります。道路を掘り、配管を通し、他のインフラと干渉しないように整えていく。情報インフラの見た目が変わっても、支える構造の基本はやはり土木技術なのです。
無電柱化がもたらすメリットと課題
電線の地中化には、確かに多くのメリットがあります。
まず、災害時の被害を軽減できること。そして電柱がないことで、歩道が広く使えたり、車椅子やベビーカーの移動がしやすくなったりと、安全性も向上します。街の見た目がスッキリするのも、大きな魅力です。
一方で、課題も少なくありません。工事には高い費用がかかり、施工期間も長くなりがちです。さらに、地中に埋めた情報インフラは簡単に目視できないため、点検や修理の難易度も上がります。とくに既存インフラとの重なりを避けるには、慎重な設計が欠かせません。
このように、地中化は見た目がスマートで利便性も高い一方で、施工・維持の面では非常に繊細な配慮が求められます。それを調整できるのが、土木の現場力であり、まさに情報インフラの調整役なのです。
日本と海外の比較から見る将来像
海外では、電線の地中化はすでに一般的な国も少なくありません。たとえば、ロンドンやパリなどの欧州主要都市では、電柱そのものが存在しない地域もあります。街並みも美しく、情報インフラが街の表層から消えることで、防災面でも効果を発揮しています。
一方、日本では地形や都市構造の違いもあり、すべてを一気に地中化するのは現実的ではありません。そのため、現在は幹線道路や新興開発エリアを優先して、段階的に進められています。すべてを地下に収めるには、まだ越えるべき課題も多いのが現実です。
それでも、今後スマートシティや自動運転が本格化すれば、情報インフラの安定性と空間効率はますます重視されるようになるはずです。だからこそ、「どこにどんな構造をつくるのか」という土木的な視点が、未来のまちづくりに欠かせなくなってきているのです。
電線地中化を支える土木の技術と工法
地中に情報インフラを通すための構造とは
電線を地中に移すといっても、ただ埋めればいいわけではありません。地面の下にはすでに上下水道、ガス、通信管などがびっしりと張り巡らされており、新たに情報インフラを通すには、きちんとした“通路”が必要です。
一般的には、直径5〜15cmほどの管(管路)を複数本並べて埋設し、その中に電力線や通信線を通します。ある程度の距離ごとに、点検や作業用の「ハンドホール」も設置されます。この一連の構造が、安全かつ効率的に情報インフラを運用するための基盤になります。
ただ、その基盤を支えるのは、言うまでもなく土木技術です。土質や地下水位、周囲の構造物との関係を考えながら、管路の深さや角度を調整していく必要があります。見えないからこそ、より慎重な設計と施工が求められるのです。
工法の選び方とその難しさ
電線地中化には大きく分けて2つの工法があります。ひとつは「開削工法」。これは道路を掘って管を埋める、もっとも基本的な方法です。構造がシンプルな分、コストを抑えやすい反面、交通への影響や工期の長さが課題になります。
もうひとつが「非開削工法(推進工法・シールド工法など)」です。これは、道路を掘らずに地中から掘り進める方法で、交通量が多い場所や都市部でよく使われます。技術的には高度で、使う機材も大型になりますが、地表への影響を抑えられる点では非常に有効です。
ただ、どちらの工法を選ぶにしても、周囲にある他のインフラとの調整が欠かせません。地中化によって想定外の地中物と干渉するリスクがつきものです。想定外の配管や硬い地層にぶつかることもあれば、設計図と実際の現場が微妙に違う、なんてことも。だからこそ、施工の現場では、経験豊富な土木技術者の目と判断が頼りになります。
メンテナンスと“見えない管理”の工夫
地中化された情報インフラは、空中の電線とは違い、目で見て確認することができません。そのため、保守・点検のしやすさを、あらかじめ構造に組み込んでおく必要があります。
たとえば、ハンドホールの配置を工夫して作業を効率化したり、将来の増設に備えてあえて空の管を用意しておくこともあります。また、耐久性の高い素材や、防水・防錆処理も重要です。こうした工夫の積み重ねが、情報インフラの信頼性を長期的に維持するポイントになります。
地中にあるものは、誰の目にも触れません。それでも、日々の暮らしを支えるために、土木の技術者たちは「見えない安全」を守り続けているのです。
地域特性と電線インフラの多様化
都市と地方で異なる構造戦略
日本は地域によって、気候も地形もまったく異なります。当然、電柱や電線の設計・配置にも違いが生まれます。都市部では高層ビルや交通量の多さがネックになり、情報インフラの配置には高度な構造設計が求められます。限られた空間に、電柱や管路をどう配置するか。まさに“都市のパズル”のようです。
一方で、地方や郊外ではスペースに余裕があり、電柱を比較的自由に配置できます。そのぶんコストを抑えやすく、地中化の必要性も都市ほど高くはないと判断されるケースもあります。ただし、広い面積をカバーするとなれば、保守や点検の手間は増えるので、構造の工夫が欠かせません。
つまり、地域ごとに異なる環境とニーズに応じて、情報インフラの「最適なかたち」を選び取ることが重要なのです。
雪・地震・塩害…自然条件に対応する知恵
たとえば、北海道のような豪雪地帯では、電線に雪が積もらないような構造設計が必要になります。電柱の高さを調整したり、電線の張力を変えたりといった細かな工夫が求められます。富山県の一部では、雪の重みで電線が切れるのを防ぐために、補強材が取り付けられている例もあります。
また、地震が頻発する地域では、電柱の基礎をより強固にするのが一般的です。沿岸部や離島では、海風に含まれる塩分によって電線が劣化しやすいため、防錆処理や耐塩性の素材を使用することも珍しくありません。こうした自然条件に対応する構造設計も、土木の知恵のひとつです。
つまり、電線や電柱の構造は「どこに建てるか」でまったく変わる。そう考えると、情報インフラは全国どこでも同じではなく、まさに“地域で育てる構造”だと言えるのかもしれません。
地中化か電柱維持か?その選択の背景
無電柱化が進められる一方で、「あえて電柱を残す」という判断をする自治体もあります。地形が複雑で工事が難しい、予算が限られている、周囲との調和を優先したい──理由はいろいろです。歴史的景観を守るため、あえて地中化を避ける選択をする地域もあります。実際、京都の一部の歴史地区では、景観とのバランスを考えて、電柱を目立たない色に塗り替えるといった工夫も行われています。
また、地中化された情報インフラは点検や修理がしにくいため、メンテナンス性を重視する現場では、あえて架空線を選ぶケースもあります。どちらが良い・悪いではなく、地域の条件や優先順位によって“正解”は変わってくるのです。
こうした柔軟な判断を支えるのもまた、構造や施工に精通した土木技術者の存在です。情報インフラは、全国一律に整えるものではなく、「その地域に合った形でつくる」ことが、いちばんの近道なのかもしれません。
まとめ
情報インフラと聞くと、つい最新のデジタル技術や高速通信を思い浮かべがちです。ですが、それを物理的に支えているのは、電柱であり電線であり、地中に築かれた管路や基礎構造といった「土木の世界」です。私たちの暮らしをつなぐ情報は、見えない場所で土木によって守られ、維持されているのです。
電柱の構造設計や、電線の張力調整、電線地中化の施工、さらには地域特性に応じた構造の工夫。どれも表には出にくい仕事ですが、社会全体の安全性や信頼性を左右する重要な役割を果たしています。災害時に機能し続けるために、構造がどうあるべきか。都市の未来像に合わせて、情報インフラはどう設計すべきか。そのすべてに、土木の力が関わっています。
これからの社会は、5GやIoT、自動運転といった新たな技術とともに、ますます複雑な情報インフラが求められていくでしょう。けれど、どれだけ時代が進んでも、最後に人と人をつなぐのは「構造の信頼性」です。そしてその土台を築くのが、他でもない“土木”なのです。
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