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#土木インフラの仕組み

電線共同溝とは?無電柱化のメリットと土木インフラの仕組み
2025.7.16
目次
近年、都市部を中心に「無電柱化」の取り組みが広がりを見せています。災害時の安全性向上や、美しい街並みの形成といったメリットが注目される中で、それを支える土木インフラである「電線共同溝」の重要性も見直されつつあります。電柱をなくすだけでは成り立たない無電柱化の裏側には、緻密な計画と高度な土木技術が必要不可欠です。
本コラムでは、電線共同溝とは何かをわかりやすく解説しながら、無電柱化によって私たちの暮らしがどのように変わるのか、またその実現に向けた課題や可能性についても掘り下げていきます。

電線共同溝とは?―都市の“見えない土木”インフラ
電線共同溝はどんな設備?
私たちが普段歩いている道路の下には、さまざまなインフラ設備が埋設されています。その中でも、「電線共同溝」は、電力線や通信線などをまとめて収容するための地下空間であり、無電柱化の実現に欠かせない構造物です。災害に強く、美しい景観を保つといったメリットから、都市を中心に導入が進んでいます。
電線共同溝は、コンクリート製の管路に複数の配線を集約して通す設備で、道路の下に設けられます。これにより、上空に張り巡らされた電線が不要となり、地上はすっきりとした景観に変わります。また、配線の修繕や更新も容易になるため、長期的な維持管理においても大きなメリットがあります。
さらに、無電柱化によって歩道の幅が確保され、自転車や歩行者がより安全に移動できる都市環境が整います。このように、電線共同溝は単なる配線スペースではなく、都市機能と安全性を支える重要なインフラなのです。
管路部とハンドホール部の構成
電線共同溝は、「管路部」と「ハンドホール部」という2つの構成要素から成り立っています。管路部には電力線や通信線が通され、ハンドホール部は点検・修理の際にアクセスするためのスペースです。これらは一定間隔で設置され、効率的かつ安全な維持管理を可能にしています。
特に都市部では、限られた地下空間の中に上下水道やガス管も存在しており、それらと干渉しないように電線共同溝を配置する必要があります。このような設計には、土木技術と高度な空間把握能力が求められます。無電柱化に必要な工事は、表面上はシンプルに見えても、実際には複雑な調整が不可欠です。
土木インフラとしての役割と重要性
無電柱化の目的は、単に電柱をなくすことではありません。都市の安全性や景観向上、防災性の強化といった多面的なメリットを実現することにあります。そして、それを物理的に支えるのが電線共同溝です。地上が開放的になることで、災害時の緊急車両の通行もスムーズになり、観光地では景観価値が向上するなど、多方面にわたる効果が期待できます。
また、近年ではICTやBIMといった技術を活用した電線共同溝の整備も進められており、より効率的で高精度な施工が可能になっています。将来的には、スマートシティ化と連動した無電柱化の取り組みが一層進むと考えられています。
このように、電線共同溝は都市機能の土台であり、見えないところで多くのメリットを提供している存在です。都市の安全性、快適性、機能性を高めるための基盤として、今後ますますその重要性が増していくでしょう。
インフラ視点で見る無電柱化のメリット
災害に強いまちづくりを支える無電柱化
地震や台風などの自然災害が多い日本において、電柱は倒壊や感電のリスクをはらむ設備です。こうした課題を解決する手段として、無電柱化は高く評価されています。電柱を撤去し、代わりに電線共同溝へ配線を地中に収めることで、地上の安全性が大きく向上します。
たとえば、緊急車両が通行しやすくなる、防災避難路が確保されるといったメリットがあります。また、電柱や電線が倒れることで発生する通行障害や火災のリスクも抑えられます。無電柱化は防災インフラの強化に直結しており、電線共同溝の整備は地域の安全性を支える基盤なのです。 災害発生時でも電力・通信の復旧が迅速に行える体制を築くことは、都市のレジリエンスを高めるうえで大きなメリットです。
景観と都市空間の価値を高める
電柱や電線が視界からなくなることにより、街の景観は大きく変化します。これは、無電柱化によるもっとも分かりやすいメリットのひとつです。観光地や歴史的地区では、空が広く感じられ、街の印象も明るくなります。写真映えする景観が保たれることで、観光価値が向上するという実例も多く見られます。
こうした景観向上は、住民の満足度や地域への愛着にも影響を与えます。さらに、電線共同溝を活用することで、地上スペースが有効に使えるようになり、歩道や自転車道の整備、バリアフリー対応も進みます。これらは、都市空間全体の快適性を高める実用的なメリットです。
特に、まちづくりの一環として無電柱化を位置づけている自治体では、都市ブランドの形成と定住促進にもつながる効果が期待されています。
維持管理の効率化と長期的なコストメリット
電線共同溝には、保守管理がしやすいという利点もあります。地上の電線は、台風や大雪などの気象条件によって破損しやすく、修復作業も困難です。これに対し、地下に収容されたインフラは外的要因の影響を受けにくく、安定稼働が期待できます。これも無電柱化の大きなメリットのひとつです。
点検や交換作業も計画的に実施できるため、維持管理の効率が高まり、トータルコストの低減にもつながります。初期投資が高くても、長期的に見ると電線共同溝の整備は経済的な選択肢と言えます。
さらに、各インフラを一元的に管理できるため、他の事業との調整もスムーズになります。こうした多面的なメリットは、行政や事業者にとっても魅力的な要素であり、持続可能な都市経営を支える手段として注目されています。
電線共同溝の設計と施工―土木の視点から見る難しさ
地中インフラとの複雑な調整が必要
都市部での電線共同溝の整備には、地下に張り巡らされた水道管やガス管、通信ケーブルなどの既存インフラとの調整が欠かせません。限られた空間に新たな設備を加えるには、精密な設計と地中情報の正確な把握が必要です。
特に無電柱化を進める地域では、計画段階での埋設物調査が重要であり、事前に障害物の有無を把握しておくことで、施工トラブルを回避できます。近年では、地中レーダーや3D測量技術を活用し、地下空間を可視化する取り組みが進んでいます。これにより、無理のない配管設計が可能となり、施工後のトラブルやコスト増を防げるというメリットが生まれます。
電線共同溝の整備は、インフラ配置全体を見通す視点が求められる作業です。表面には見えない部分に多くの工程と調整が必要であり、無電柱化の中核をなすインフラといえます。
限られた都市空間での施工の工夫
都市の中心部では、施工時間や作業スペースに制限があるため、電線共同溝の設置には多くの工夫が必要です。たとえば交通量の多い道路では、夜間に工事を行い、作業終了後すぐに通行可能な状態に戻す必要があります。
また、工事の騒音・振動対策として、静音型機械や非開削工法を導入するケースも増えています。これにより周囲への影響を最小限に抑えつつ、効率よく作業を進めることが可能です。こうした取り組みは、地域住民との共生を図りながら進める無電柱化において、重要な配慮と言えます。
施工時の丁寧な段取りと対応が、のちの維持管理の容易さにも直結します。結果として、長期的なメリットを享受できる整備が可能になるのです。
施工後の維持管理を見据えた設計
電線共同溝の設計では、施工後の点検・補修作業を想定した構造にすることが求められます。配線の配置、ハンドホールの間隔、作業員の出入りスペースの確保など、将来の運用効率を左右する要素が多く含まれています。
また、定期的な点検をしやすくすることで、インフラの健全性を長期にわたって保つことができます。こうした設計思想は、無電柱化の維持・発展において非常に重要です。更新作業の容易さ、管理コストの低減といったメリットは、計画段階での配慮によって決まるといっても過言ではありません。
このように、電線共同溝の施工は単なる埋設作業ではなく、都市の未来を支える持続可能な基盤整備そのものです。無電柱化を成功させるためには、設計と施工、そして維持のすべての段階で高度な判断と技術が求められます。
ICT・BIM/CIMが変える無電柱化の現場
デジタル技術で変わるインフラ整備の姿
従来の土木工事では、設計から施工、管理に至るまで、紙の図面や経験に頼る部分が多くありました。しかし、ICT(情報通信技術)やBIM/CIM(3Dモデルによる設計・施工支援)の活用が進むことで、無電柱化に必要な作業の効率が大きく向上しています。
電線共同溝の整備は、もはやアナログな施工手法だけでは対応しきれない段階に入っています。ICT導入によって、無電柱化の質とスピードが大きく進化しているのです。
BIM/CIMによる効率的な設計と施工管理
BIM/CIMは、インフラ設計に必要な情報を3Dモデルに統合して管理する仕組みです。電線共同溝の設計段階では、この技術を使うことで、配線ルートや埋設深さ、ハンドホールの位置などを立体的に把握でき、計画段階から現場と設計のズレを防ぐことが可能になります。
施工中も、現場での変更点をすぐにデータに反映できるため、修正や調整が迅速に行えます。こうしたフローにより、全体の施工精度が向上し、維持管理の手間も軽減されるというメリットがあります。
また、電線共同溝の設計と同時に、他のインフラ整備と連携できるのもBIM/CIMのメリットです。たとえば歩道拡張や排水改善といった他工事と一体化して進められるため、無電柱化を効率よく推進できます。
維持管理にも広がるICT活用の可能性
無電柱化は整備して終わりではなく、長期にわたる維持管理が重要です。ここでもICT技術が活躍します。たとえば、電線共同溝内に設置したセンサーから温度や湿度、振動などのデータを収集することで、異常の兆候を早期に察知することができます。
さらに、BIMデータと連携すれば、過去のメンテナンス履歴や交換時期なども可視化でき、予防保全につなげられます。このような情報の蓄積と活用は、将来的なコスト削減という面でも大きなメリットがあります。
ICTやBIM/CIMは、電線共同溝の整備と無電柱化を支えるだけでなく、まち全体の管理水準を底上げする仕組みとしても機能しはじめています。こうした技術の導入が当たり前になることで、より安全で持続可能な都市インフラが実現されていくのです。
政策と民間の役割 ― 持続可能な都市整備への道
無電柱化を推進する国の取り組み
国土交通省を中心に、無電柱化を推進するさまざまな施策が実施されています。とくに幹線道路や通学路、観光地を対象とした計画的な整備が進んでおり、それに伴って電線共同溝の整備も全国で拡大しています。国の支援制度では、設計や施工にかかるコストへの補助だけでなく、標準仕様や技術ガイドラインの整備も進められており、地方自治体の導入ハードルは下がりつつあります。
こうした政策の目的は、安全性・景観・防災性といった都市の質を向上させることにあります。無電柱化には初期投資が必要ですが、それを上回る公共的なメリットが期待されており、将来の社会基盤を見据えた重要なインフラ政策といえるでしょう。
特に都市の再整備と同時に電線共同溝を整備することで、費用対効果が高まり、限られた予算でも最大の成果が得られるというメリットがあります。
民間事業者との連携がカギを握る
電線共同溝の整備は、行政だけでは完結しません。実際の設置には電力会社や通信事業者、道路管理者など、多くの関係者との協力が必要です。近年ではPPP(官民連携)やPFI(民間資金活用)といったスキームを通じて、民間の技術力や資金を活用する事例が増えています。
民間事業者と連携することで、無電柱化の進行スピードが向上するだけでなく、地域ごとの課題に応じた柔軟な対応も可能になります。また、ICTやBIM/CIMの導入も民間主導で加速しており、施工や維持管理の最適化という点でも大きなメリットが期待されています。
複数事業者の配線を1つの電線共同溝に集約することは、物理的な効率性だけでなく、管理・運用面でも有利に働きます。関係者が情報を共有しながら協力する体制が整えば、トラブルの防止や将来的な改修の円滑化にもつながります。
地域特性に応じた無電柱化の進め方
全国一律の整備ではなく、地域の事情に応じた無電柱化の進め方も重要です。たとえば積雪地帯では除雪作業との両立、観光地では景観との調和、地方都市では財政負担とのバランスなど、さまざまな要素を考慮しなければなりません。
そうしたなかで有効なのが、地域ごとの状況に合わせた電線共同溝の設計です。コンパクトな構造にしたり、他のインフラと共用したりすることで、効率的な整備が可能になります。このような柔軟性が、長期的なメリットを生み出す鍵となります。
また、住民参加型の合意形成プロセスを取り入れることで、地域に根ざした持続可能なまちづくりが実現します。無電柱化は行政や企業だけのプロジェクトではなく、地域全体で育てていくインフラ整備なのです。
まとめ
都市の景観を整え、安全性を高めるためのインフラ整備として、無電柱化の重要性はますます高まっています。そして、それを実現するための基盤となるのが、見えない場所で都市機能を支える「電線共同溝」です。私たちの暮らしの中で直接目にすることは少なくとも、このインフラがあるからこそ、安心して過ごせる環境が守られているのです。
無電柱化には、災害に強くなる、街が美しくなる、空間を有効活用できるといった多くのメリットがあります。一方で、設計や施工、費用面での課題もありますが、それらを乗り越えることで得られる価値は非常に大きいといえるでしょう。特に近年では、ICTやBIMといった技術が導入され、電線共同溝の整備効率も飛躍的に高まっています。
こうした整備が進むことで、都市の機能性や快適性が向上し、未来のまちづくりにもつながっていきます。電線共同溝を軸とした無電柱化は、一時的な変化ではなく、持続可能な都市づくりの一部として、長期的に社会に貢献していくものです。多くの人にとって、そのメリットを実感できる都市環境が、これからさらに広がっていくことでしょう。
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