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道路の「ひび割れ」って何が原因?補修・メンテナンスの基本を学ぶ

道路の「ひび割れ」って何が原因?補修・メンテナンスの基本を学ぶ

道を歩いていて、ふと足元の道路に細かいひび割れが走っているのを見つけたことはありませんか?そのとき、「ちょっと古いだけかな」と気にも留めずに通り過ぎた方も多いかもしれません。でも、実はその小さなひびこそが、道路が私たちに出している“最初のSOS”なのです。
雨が降り、気温が上がったり下がったりする日々のなかで、道路は思っている以上に過酷な環境にさらされています。そして、通るたびにかかる車の重さがじわじわと影響し、見えないところから劣化が進んでいくのです。

このコラムでは、そんな道路にできるひび割れの原因や種類、放置した場合のリスク、そして効果的な補修・メンテナンスの方法まで、順を追って紹介していきます。

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道路のひび割れはなぜ起こる?

気温や天候の変化がもたらす負荷

道路に生じるひび割れの原因は様々です。
大きな要因の一つが、気候条件によるものです。たとえば夏の猛暑、冬の凍結、雨の多い梅雨。これら自然環境の変化は、アスファルトやコンクリートに少しずつダメージを蓄積させていきます。

特に注意が必要なのが「凍結融解(とうけつゆうかい)」によるひび割れです。冬場、道路に染み込んだ水分が夜間に凍結し、氷の体積膨張によって舗装が内側から押し広げられます。そして昼間に再び溶ける。この繰り返しが微細な亀裂を生み、やがて肉眼でもわかるひび割れへと成長していくのです。

一見すると、自然が相手なので防ぎようがないように思えるかもしれません。しかし、こうした劣化を遅らせるためには、素材の選定や排水性の確保といった設計段階からの工夫が重要になります。

車の重さが与えるダメージ

もう一つ見逃せないのが、車両による荷重です。

私たちが日々利用する道路は、自家用車だけでなく、大型トラックバスなど、多種多様な車両が通過しています。こうした繰り返しの通行によって、舗装面は徐々に疲労していき、細かなひび割れを引き起こします。特に交差点やバス停周辺のように「停止」「発進」が頻繁に行われる場所では、その負荷は集中しやすく、ひび割れの進行も早まります。

また、重量物を積んだ車両が通行することで、表層だけでなく下の路盤路床まで影響を受け、ひび割れが深部へと達するケースもあります。これが放置されると、簡単な補修では済まなくなり、道路全体の再構築が必要になることもあるのです。

設計・施工段階での不備も要注意

実は、道路ひび割れは施工当初からの“見えない問題”が原因になっていることもあります。

たとえば、舗装の下地となる路盤が十分に締め固められていなかった場合、その上にアスファルトを敷いても時間とともに沈下たわみが発生し、結果的にひび割れにつながってしまいます。 さらに、使用される材料の品質や配合も、道路の寿命を大きく左右します。施工現場での温度管理が甘かったり、雨天時に作業を強行したりすれば、完成後しばらくしてから問題が表面化することもあるのです。
ひび割れを未然に防ぐには、補修技術の向上だけでなく、設計・施工段階での丁寧な仕事こそが、なによりも大切だと言えるでしょう

ひび割れの種類を知ろう

方向でわかる:縦・横・斜めのひび割れ

道路に生じるひび割れには、いくつかの「方向的なパターン」があります。

たとえば、車の進行方向と平行に発生するものは「縦ひび割れ」、これに対して車の進行方向と直角に交差するものは「横ひび割れ」と呼ばれています。さらに、どちらとも言えないような角度で斜めに伸びる「斜めひび割れ」もあります。

縦方向のひび割れは、舗装の継ぎ目や施工の合わせ目など、構造的に応力が集中しやすい箇所に発生することがよくあります。また、交通荷重の繰り返しが弱点を刺激し、細かな亀裂につながるケースも少なくありません。
一方で、横方向のひび割れは、寒暖差や凍結・融解の繰り返しによってアスファルトが伸び縮みし、その応力に耐えきれず発生することが多く、特に寒冷地域で顕著に見られます。これらの方向性は、どのような力が道路に働いたのかを示す“痕跡”ともいえます。補修の際にも、どの方向のひび割れかによって、適切な対処方法が異なるため、種類を見極めることが重要です

表面的か構造的か?ひび割れの“深さ”も重要

見た目が似ているひび割れでも、補修方法が異なることがあります。その違いを生むのが、ひび割れの“深さ”です。

表層にのみ現れている浅いひび割れであれば、シーリング材などを使った簡易的な補修で十分なケースもあります。こうした補修はコストも抑えられ、作業時間も比較的短く済みます。
しかし、路盤や基層にまでひび割れが到達している場合、表面だけを直してもすぐに再発してしまいます。そのため、断面を切り出して内部構造を調査する「コア採取」などで、どこまで進行しているのかを見極めた上で補修を進めることが求められます。

道路のひび割れに対する補修では、「見えている部分だけ」で判断するのではなく、その奥にある構造的な問題も含めて考える姿勢が必要なのです。

ひび割れを放置するとどうなる?

安全性が損なわれるリスク

ひび割れた道路をそのままにしておくと、安全面でも深刻な影響が出てきます。たとえば、小さなひびが雨水を含んで滑りやすくなったり、夜間や雨天時に視認性が悪化して事故の原因になったりすることがあります。さらに、歩行者が足を取られて転倒したり、自転車やバイクのタイヤが引っかかってバランスを崩したりと、直接的な危険にもつながります。

特に、高速道路幹線道路のようにスピードを出す場面では、わずかな路面の異常でも重大な事故に直結しかねません。ひび割れが引き金となって舗装が一部はがれたり、穴が開いてしまった場合、ドライバーにとっては予測できない障害物となります。道路の安全性は、常に「予防」と「早期対応」が基本です。問題が表面化する前に、適切な補修を行うことが欠かせません。

水の侵入が構造をむしば

ひび割れがもたらすもう一つの大きな問題は、「」の侵入です。表面に生じた小さなひびから雨水が染み込み、舗装の下にある路盤・路床にまで到達すると、そこで土や砂が洗い流され、内部に空洞ができることがあります。こうした内部の空洞化は、目に見えない形で道路の構造をじわじわと弱らせていきます

空洞が拡大すれば、舗装面が沈下したり、陥没する「ポットホール」と呼ばれる穴が突然現れたりすることも。最初は単なるひび割れでも、時間が経つほど補修の手間もコストも膨らんでいくのが現実です。

このように、道路ひび割れを放置することは、構造的な劣化を加速させ、やがて大規模な補修や通行止めといった事態を引き起こすリスクをはらんでいます。

補修費用がかさみ、社会的コストも増大

道路の維持には費用がかかります。しかし、その費用は「いつ・どこで・どれくらいの補修を行うか」によって大きく変わりますひび割れが出始めた早期の段階で補修すれば、比較的小規模な作業で済みますし、交通への影響も最小限に抑えられます。

ところが、劣化が進行してしまうと、単なる表面補修では対応できず、舗装を一度すべて剥がして路盤からやり直すような大規模工事が必要になります。そうなれば、材料費や人件費だけでなく、交通規制や通行止めに伴う経済的損失も無視できません。

自治体や道路管理者にとっては、限られた予算のなかで効率的な維持管理を行うことが求められています。その意味でも、「ひび割れは早めに見つけて、早めに補修」が鉄則です。道路は、使い続けるためにこそ、こまめな手入れと予防的な対応が必要なのです。

ひび割れの補修方法と選び方

応急処置と本格補修、その違いとは?

道路ひび割れが確認されたとき、まず「応急処置」が検討されます。これは、被害の拡大を防ぐために早期対応として行うもので、例えば補修材を使って、ひびをふさぐといった簡易的な補修が中心になります。応急処置は短時間で完了するため、交通への影響を最小限に抑えつつ対応できるという利点があります

一方で、ひび割れが進行している場合や、構造的な問題が疑われるケースでは、本格的な補修が必要です。これは、表面だけでなく、路盤や基層など下部構造にも手を加える必要があり、工期や費用も大きくなります。とはいえ、見かけだけを補修しても、すぐに再発してしまえば意味がありません。道路の状態をしっかりと把握したうえで、適切な補修方法を選ぶことが、将来的な負担を軽減する鍵になります。

ひび割れの種類に合わせた補修技術

ひび割れの補修方法は、種類や深さによって異なります。
たとえば、浅く細いクラックには「シール工法」がよく使われます。これは、溝を切ってからシーリング材を流し込む方法で、水の侵入を防ぐのに有効です。比較的安価で簡便なため、小規模な道路や早期対応に向いています
一方、ひび割れが広がって網目状になっているような場合には、アスファルトの打ち換えや「切削オーバーレイ工法」が適しています。これは、ひび割れが多発している表層を一度削り取り、新しいアスファルトを敷き直す方法です。現場の状況やひび割れの進行度を正確に診断したうえで判断することが大切です。

補修材と技術の進化に注目

近年では、補修に使われる材料や工法も進化しています。従来のアスファルトだけでなく、再生材を用いた環境配慮型の補修材や、自己修復機能を持つ特殊な舗装材も実用化され始めています。

たとえば、太陽光や車両の重みを利用して微細なひび割れを自動で閉じる「自己治癒型アスファルト」は、長期的な維持管理コストの削減に貢献する技術として注目されています。

また、赤外線AIを活用した路面診断ドローンによる上空からの点検ロボットによる自動補修など、補修の現場にもデジタル技術が入り始めています。これにより、補修の精度が高まり、人的ミスの軽減や作業効率の向上が実現しています

ただし、どれだけ技術が進化しても、「適材適所」で使う判断力が重要です。現場の目と経験、そして状況に応じた柔軟な判断が、補修の質を左右します。道路のひび割れに対して、どの技術をどう使うか――それが、これからの補修計画に求められる視点です。

道路のメンテナンス計画とは?

点検はどれくらいの頻度で行うべきか

道路に発生するひび割れを早期に発見し、適切に補修するためには、定期的な点検が欠かせません。とはいえ、すべての道路を常に監視することは現実的ではありません。そこで、国や自治体では「道路の種類」や「交通量」に応じて、点検の頻度や項目を定めています

たとえば、国道高速道路といった幹線道路では、年に1~2回程度の定期点検が義務付けられていることが多く、主要な市道などでも、数年おきに調査が実施されるケースが増えています。点検の際には、ひび割れの有無だけでなく、その広がり方や深さ、既存の補修がどの程度機能しているかも確認されます。道路の状態を“見て”判断するだけでなく、履歴データに基づいた評価が行われるようになってきているのです

補修計画と予防保全の考え方

かつては、劣化が目に見えてから対処する事後対応の道路管理が主流でした。しかし、今では「予防保全」の重要性が広く認識されています。つまり、ひび割れが大きくなる前の段階で、軽微な補修をこまめに行うことで、長期的な道路寿命を確保しようという考え方です。

予防的な補修には、簡易なクラックシール表層コーティングなどが用いられ、コストも比較的安価に抑えられます。一方で、放置して劣化が進めば、表面だけでなく下部構造にもダメージが及び、大規模な補修が必要となります。その差は、費用だけでなく、交通規制や環境負荷にも影響します。

予防保全の視点からは、「どこを・いつ・どれだけ補修するか」という計画性が極めて重要です。限られた予算の中で、最も効果的な補修を行うには、道路ごとの状態を定量的に把握し、優先順位をつける必要があります

ICT・AIを活用したメンテナンスの最前線

近年では、道路メンテナンスの分野にもICTAI技術が取り入れられています。人の目では見落としがちな微細な変化も、データとして記録・分析できるため、早期対応につなげやすくなります。

また、クラウド上での情報共有によって、点検データや補修履歴が一元管理されるようになり、道路管理者・施工業者・自治体間での連携もスムーズになりました。さらに、ひび割れの進行予測にAIを活用することで、「今後どこに補修が必要になるか」をあらかじめ把握し、事前に予算や人員を確保しておくといった運用も可能になってきています。

これからの道路補修とメンテナンスは、技術とデータを組み合わせた“見える管理”が標準となっていくでしょう。こうした動きは、限られた人材や財源のなかで、効率的かつ持続的に道路インフラを守るための大きな一歩です。

現場から見る補修のリアル

小規模自治体が抱える現実的な課題

道路ひび割れ補修と一口に言っても、地方や小規模な自治体にとっては簡単な話ではありません。限られた予算と人員の中で、多くの道路を維持管理しなければならず、すべてのひび割れにすぐに対応できるわけではないのが実情です。

点検や補修に必要な機材や人材も不足しがちで、対応が後手に回るケースも少なくありません。「わかってはいるけど、予算が足りない」「専門の施工業者が確保できない」――そうした声は現場では日常的に聞かれます。

それでも、道路の安全は住民の生活に直結しています。ひび割れを放置せず、できる限り早く補修に取りかかるため、応急対応や優先順位づけを工夫するなど、自治体ごとの創意工夫が求められているのです。

地元施工業者と住民の連携

道路補修の多くは、地域の施工業者が担っています。大型のインフラ工事とは異なり、こうしたひび割れ補修は小回りの利く地元業者の存在が不可欠です。なぜなら、緊急対応が求められる場面や、日常的な点検において、地元ならではの機動力が強みになるからです。

また最近では、住民からの情報提供が重要な役割を果たしています。地域に住む人の“気づき”が、補修のきっかけになるケースは少なくありません。
道路補修は、もはや行政や業者だけのものではなく、「地域ぐるみの保全活動」として位置づけられつつあります。

補修現場の人材不足と技能継承

現場の最前線では、もう一つ深刻な課題があります。それが「人手不足」と「技能継承」です。舗装補修の作業は、専門的な知識や経験が求められるため、ベテランの技術者がいなくなると、現場力が大きく低下してしまいます。

若い世代の建設業離れが進むなかで、道路補修の現場でも後継者不足が目立ってきています。特に、び割れの診断や適切な補修方法をその場で判断する力は、短期間で身につけられるものではありません。こうした技術をいかに次世代に伝えていくかが、持続的な補修体制の構築には欠かせません。

近年では、動画による施工記録の共有や、ICTを使った遠隔指導の取り組みも進みつつあります。しかし、最終的には“人が人に教える”という現場の積み重ねが、道路の品質を支えていることに変わりはありません

まとめ

ひび割れは、道路が私たちに発する最初の“サイン”です。目立たない傷のように見えるかもしれませんが、その奥には構造の劣化が進んでいる可能性があります。こうしたひび割れを放置せず、早めに補修を行うことが、道路の寿命を延ばすうえで非常に重要です

今回のコラムでは、ひび割れの発生原因や種類、進行によるリスク、そして補修方法技術について幅広く見てきました。また、予防保全の視点からメンテナンス計画を立てる重要性や、現場での課題、地域と連携した取り組みにも触れました。道路というインフラを守るには、技術や材料だけでなく、計画性・人材・地域の協力がすべて欠かせないのです
そして何より、ひび割れを「まだ大丈夫」と軽視せず、小さな変化に気づき対応する意識こそが、健全なインフラを未来へ引き継ぐ礎になります。

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