COLUMN
#土木インフラの仕組み

スマートインフラとは?未来を変える土木技術の可能性
2025.6.20
目次
「スマートインフラ」という言葉を聞いたことはありますか?
近年、私たちの暮らしを支えるインフラのあり方が、大きく変わりつつあるのです。橋や道路、上下水道といった生活基盤に、AIやセンサー技術、データ解析などの最先端技術を取り入れた「スマートインフラ」の整備が進められています。
これまで人の手に頼っていた点検や保守を、より安全・効率的に行うための仕組み。それがスマートインフラの本質です。インフラの老朽化や管理人材の不足といった深刻な社会課題を背景に、土木分野にもデジタル技術が積極的に導入され始めています。
このコラムでは、スマートインフラとは何か、従来のインフラとの違い、どのような技術が使われ、どう管理されているのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。

スマートインフラとは何か?
スマートインフラの定義と背景
「スマートインフラ」という言葉。
これはICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)といった先端技術を活用して、道路や橋、水道などのインフラを常時監視・分析・制御する仕組みのことを指します。従来は人が現場に出向いて目で確認していた点検作業も、今ではセンサーやカメラがリアルタイムで情報を取得し、それをクラウドに送信するというかたちに進化しています。
たとえば、橋梁に設置されたセンサーがひび割れを感知すると、その情報はすぐに管理センターに届く。管理者はパソコンやスマートフォンを通じて現地の状況を把握し、必要と判断すればメンテナンススタッフに連絡。わざわざ現場に足を運ばずとも、早期の対応が可能になるのです。結果として、対応の迅速化と安全性の向上、さらにはコストの削減にもつながっています。
こうしたスマートインフラの考え方は、特に日本のように戦後整備されたインフラが老朽化の時期を迎えている国では、非常に重要です。実際、耐用年数を超えた橋やトンネルが全国に数多く存在し、これをどう「管理」していくかが、今後の社会の大きな課題のひとつとなっています。
インフラと管理の課題をどう変える?
現代社会のあらゆるシステムはインフラの上に成り立っているといっても過言ではありません。
道路や水道がなければ暮らしが成り立ちません。
しかし、インフラは「作ったら終わり」ではありません。その後の維持・補修・更新という地道な管理作業があってこそ、私たちの暮らしは安定して続いていくのです。
ところが現実には、その管理体制が年々厳しくなってきています。点検業務は人手に頼る部分が多く、現場ごとのデータは紙で記録され、情報の共有や分析も一苦労。ベテラン技術者の引退や若手不足も重なり、今のままでは立ち行かなくなるという危機感も広がっています。
そこで浮上してきたのが、スマートインフラによる管理改革という考え方。センサーから得たデータをクラウドに集め、AIが異常の兆候を解析。人が気づく前に問題を察知し、事故や劣化を未然に防ぐ仕組みが構築されつつあります。
作業にかかる時間や手間、そして人件費を大きく削減できるだけでなく、これまで見逃されがちだった“ひずみ”や“変化の前兆”に早く気づけるようになれば、インフラの寿命そのものを延ばすことにもつながります。
「人の勘」から「データの予測」へ。管理のあり方は、大きく変わり始めています。
管理の“見える化”が未来を変える
スマートインフラのもうひとつの価値は、「見えないものを見えるようにする力」です。
従来のインフラ管理は、どちらかといえば“起こってから対処する”というスタイルが主流でした。しかし今では、センサーで取得したデータを日常的にモニタリングすることで、「壊れる前に対処する」予防保全型の運用が主流になりつつあります。
たとえば、橋にわずかな歪みが見つかった段階で部材を交換すれば、大規模な補修工事は避けられるかもしれません。さらに、異常の原因をデータから逆算することで、そもそもの設計や材料の選定、施工方法の見直しにも役立つ可能性があります。
これにより、インフラの状態管理が飛躍的に進化しています。
スマートインフラの技術
センサーと通信技術の進化
スマートインフラの中心ともいえるのが、“情報”の力です。見た目には何の変哲もない橋や道路、ダムの内部で、センサーがひっそりと24時間働き続けている。そんな時代になりました。
たとえば橋梁には、荷重や歪み、微細な振動、温度変化といった“異変の兆し”を見逃さないためのセンサーが取り付けられていることも。人の目ではわからないような細かな変化も、数字として把握できるようになり、管理者はオフィスや出先でも状況を確認できるようになりました。
道路では、交通量の増減や舗装の劣化具合、水たまりの発生位置までもがリアルタイムに送られてきます。下水道やダムでは、水位や流速、濁度といったデータが自動で送られてきて、もし通常と異なる動きがあればすぐにアラートが鳴る仕組みです。
もちろん、こうしたデータが意味を持つには“通信”が安定していなければなりません。そこを支えているのが、5GやLPWAといった新しい通信技術です。これらのおかげで、スマートインフラの“目と耳”は、これまで以上に広範囲で働けるようになりました。
通信とセンサー、この2つの連携がなければ、スマートインフラの成り立ちはありません。
データ管理とAI解析の融合
センサーから得られるデータは膨大です。秒単位で送られてくるデータは、そのままではただの数字のかたまりです。それを“意味のある情報”に変えてくれるのが、AIや機械学習の技術です。
インフラの管理現場では、こうしたデータがリアルタイムで解析され、「どこに異常の可能性があるか」「いつから変化が始まっていたか」などが即座に判断されます。
たとえば、橋が通常よりも大きく揺れていれば、それは疲労や老朽化のサインかもしれません。
AIは過去の履歴と照らし合わせながら、「今、何が起きているのか」を静かに教えてくれますアラートが出た地点は色が変わる、といった工夫もあり、直感的な判断がしやすくなっています。
この仕組みにより、報告の行き違いや見落としが減り、対応のスピードも向上しました。また、蓄積されたデータは“インフラの情報庫”としても役立ち、どこを優先的に修繕すべきか、どの設備に再投資すべきかといった長期的な計画にも活用されています。
スマートインフラにとって、AIとデータ管理は、過去と未来をつなぐ橋のような存在です。
BIM/CIMとスマート施工の連携
インフラのスマート化は、管理や解析だけではありません。設計から施工、そして維持管理に至るまで、全体を通して情報をつなぐことが求められています。ここで登場するのが、BIM(Building Information Modeling)やCIM(Construction Information Modeling)です。
これらは単なる3D設計図ではなく、設計図に「時間」や「素材」「施工履歴」「管理情報」といった付加情報を載せた、いわば“しゃべる図面”のようなものです。たとえばある道路がCIMで設計されていれば、その道路がどんな工法で作られ、どのような点検履歴があり、今どこに補修が必要か――それを一つのモデル上で追跡できます。
関係者が同じ画面を見ながら会話できるというのは、作業効率を上げるだけでなく、ミスの防止や意思決定の迅速化にも大きく貢献しています。
さらに現場では、ドローンやレーザースキャナーを使って地形を瞬時に測量し、建設機械には自動制御技術(MC:マシンコントロール)が組み込まれています。これにより、作業精度は格段に向上し、危険な作業に従事する人の負担も軽減されています。
スマートインフラの未来は、「つくる・守る・活かす」の全工程がデジタルでつながる世界です。センサーや通信、AI、そしてBIM/CIMといった要素が有機的に連携することで、まったく新しい土木のかたちが少しずつ現実になっています。施工から管理までを一体で考える発想が、今の土木に必要です。
スマートインフラの具体的な活用事例
橋梁のスマート管理とメンテナンス
橋や道路といった構造物の管理現場も、変化しています。
全国に点在する道路橋は、なんとおよそ73万橋。その多くは、高度経済成長期に整備されたもの。つまり、すでに50年、60年と年月を重ねた橋が少なくないのです。2023年時点で、建設から50年以上が経過した橋は約39%。この数字は2033年には6割を超えるともいわれています。(出典:国土交通省「道路メンテナンス年報2023」)。
従来は、橋の点検といえばまさに“人の目”頼りの作業でした。でも今はどうでしょうか。構造物の振動や歪み、温度や湿度までをも計測するセンサーが橋に取り付けられ、日々のコンディションを自動で監視できる時代になりました。
加えて、ドローンによる空撮や赤外線カメラが活躍。人の目では見落としがちな部分も、高精度な映像で確認できるようになりました。撮影されたデータはAIが解析し、過去と比較しながら異変を検出。肉眼では気づかないわずかな劣化も見逃しません。こうしたスマートインフラ技術は、事故の未然防止や補修計画の最適化において、確かな成果を出し始めています。
下水道インフラとAI分析
局地的な豪雨や大型台風の頻発により、内水氾濫が大きな問題になっています。こうした背景から、下水道のインフラにもスマートインフラの導入が進められています。
たとえば大阪市や名古屋市では、マンホールの中に設置した水位センサーや流量計で、地下の水の流れを常時チェック。異常があれば、すぐにアラートが届くシステムが導入されています。一部の自治体では、AIがそのデータを解析し、「どこで急激な水位上昇が起きているか」「氾濫の可能性があるのはどこか」をリアルタイムで判断する仕組みまで構築されています。
東京都では、防災アプリやLINEなどを通じて、住民に避難情報や警報を発信する体制も整いつつあります。これらは下水道だけの情報にとどまらず、気象データや地形情報とも連動し、地域全体の危機管理の一翼を担っています。
センサーとAIの連携により、人の目や判断だけでは補えなかった“スピード”と“精度”が備わるようになりました。人手不足や熟練作業員の減少が懸念される今、このようなスマートインフラの進化は、現場を支える大きな力となっているのです。
道路管理と自動化技術
私たちが毎日使っている道路。その舗装面もまた、少しずつ傷みを蓄積しています。目立たない小さなひびや段差が、いつしか事故やトラブルにつながることもあり、定期的な点検と補修は欠かせません。
近年では、自動走行する点検車両に高精度カメラやレーザースキャナーが搭載され、道路を走るだけで異常箇所を検知することができるようになっています。しかも、その情報はクラウド上に自動でアップロードされ、遠隔からでも把握できる仕組みになっているのです。
収集された画像はAIによって分類・解析され、「どのひびが長くて深いのか」「どの異常が緊急性が高いのか」といった判断が瞬時に行われます。さらには、標識や区画線の摩耗も同時に記録され、インフラの総合的な管理にもつながっています。
これまで人が何時間もかけて行っていた点検作業が、より短時間で、しかも安全に実施できるようになったのは大きな変化です。作業員が危険な場所に立ち入らずとも、正確なインフラ管理が実現できるようになった――それが、スマートインフラの目に見える成果のひとつといえるでしょう。
効率的なインフラ管理の土台が、少しずつ築かれてきているのです。
スマートインフラ導入の課題と展望
技術的・制度的な壁
スマートインフラには大きな可能性があります。けれども、導入に際しては現実的な壁も多く、決して簡単に進むものではありません。
スマートインフラの導入には、運用管理の体制構築も欠かせません。
まず立ちはだかるのが、導入にかかる初期コストです。センサー、通信装置、クラウドシステム、それにAI解析のプラットフォーム…。これらをすべて揃えるには相応の資金が必要で、特に財源の限られた地方自治体や中小企業にとっては、大きな負担となります。
それに加えて、既存のインフラに新たな技術を後付けするには、実務上の困難も伴います。設計図面が見つからなかったり、構造的にセンサーの取り付けが難しかったり。単に機器を取りつけるだけでは済まず、その後のデータをどう管理し、継続的に活用していくのかという運用体制の構築も、重要な課題です。
制度の面でも、未整備な部分が少なくありません。たとえば、スマートインフラによって取得されるデータの取り扱いには、セキュリティやプライバシーの問題がついてまわります。誰がどの情報を、どこまで利用できるのか。そのルールづくりがまだ十分とは言えません。インフラ管理データの扱いには、慎重なルール設計が必要です。
さらに、AIの判断結果を行政の意思決定にどう反映するかという点でも、明確なガイドラインが求められています。
つまり、スマートインフラの導入には、技術面の進化だけではなく、制度や実務の基盤づくりが同時に必要なのです。
教育と人材育成の重要性
スマートインフラの運用には、“二刀流”の人材が不可欠です。
つまり、ITの知識と土木の経験、その両方をバランスよく備えたハイブリッド型の人材。センサーやAIを使いこなしながら、現場の構造物がどんな劣化をするのか、どう補修すべきかも理解している。そんな人が必要とされているのです。
とはいえ、現在このような人材は決して多くありません。
だからこそ、大学や高専、企業内の研修などで、「土木+デジタル」を一体的に学べる新しい教育が必要になってきます。ただ技術を教えるだけでは不十分で、「インフラは誰のために存在するのか」「どんな社会的価値があるのか」といった倫理や公共性も含めて、考えられる人材が望まれています。
一方、すでに現場で働いている土木技術者への再教育も大切です。
「スマートインフラ」という概念は、単なる装置の導入にとどまらず、インフラ管理のあり方そのものを変えていく考え方だからこそ、現場をよく知る人たちの理解と協力が欠かせません。
デジタルに苦手意識のあるベテランの技術者も多いかもしれませんが、その知見と経験が、新しい管理体制の土台になるのです。
都市管理とスマートシティの未
スマートインフラは、単体の仕組みではありません。
むしろ今後は、道路や交通、上下水道、エネルギーといった都市機能全体をつなぐ「スマートシティ」の構成要素として、その存在感を増していくと考えられています。
たとえば、道路や信号の情報をリアルタイムで共有し、混雑を避けるルートをナビ。エネルギーの使用状況を把握し、余剰電力を効率よく配分する。災害発生時には、避難経路の照明を優先的に確保し、安全な導線をつくる。そんな未来が、少しずつ現実味を帯びてきました。
さらに、スマートインフラによって蓄積されたデータは、都市計画にも役立ちます。たとえば、「どのエリアのインフラが劣化しやすいか」「補修が集中している場所はどこか」といった情報は、これからの都市づくりに欠かせない判断材料となるでしょう。
都市の統合管理を支えるインフラ技術として、さらなる進化が期待されます。
まとめ
ここまで見てきたように、スマートインフラは、私たちの暮らしの根幹を支えるインフラをより安全に、より効率的に、そしてより持続可能なものへと進化させる新たな土木技術です。
スマートインフラは、未来のインフラ管理の姿を示しているのかもしれません。センサーやAIを活用することで、従来では不可能だったリアルタイム監視や予測管理が実現され、災害対応や老朽化への対策も次の次元へと移行しつつあります。
一方で、スマートインフラをただ導入するだけでは、本質的な変化が起きるとは考えづらいです。それを使いこなす人材の育成や、制度・法整備との連携、そして地域ごとのニーズに応じた設計・運用が求められています。これからのインフラ管理は「つくる」から「守る」へ、さらには「活かす」時代へとシフトしていくのだと考えられます。
スマートインフラは、都市部だけでなく、地方や過疎地、高齢化が進む地域社会にこそ必要とされる仕組みでもあります。目指すべきは、どこに住んでいても、誰もが安心して暮らせる社会。その基盤を支えるのが、テクノロジーと土木が融合した未来型のインフラなのではないでしょうか。
技術は目的ではなく手段。私たちがスマートインフラをどう活用し、どんな未来を描くのか。それを考えることこそ、次の世代へと“つなぐ土木”の始まりなのでは。
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