COLUMN
#土木インフラの仕組み

道路の陥没事故が増えている?原因と老朽化の関係を解説
2025.8.19
近ごろ、テレビやネットのニュースで「道路が突然崩れ落ちた」という映像を目にすることが増えてきました。静かな住宅街の小道や、車がひっきりなしに走る幹線道路が、ある日いきなり大きな穴を開けてしまう──その場に居合わせた人の驚きや不安は想像に難くありません。
昨日まで何事もなく通っていた道が、翌朝には立ち入り禁止のテープで囲まれている。もし自分がそこを歩いていたら、と考えるだけでぞっとする人も多いはずです。
こうした道路の陥没には、いくつもの原因が絡んでいます。特に見えない地下で静かに進む「老朽化」は、社会全体が抱える大きな課題です。舗装の下には水道管や下水道管、ガス管などのライフラインが複雑に入り組み、長い年月のうちに劣化していきます。その結果、水漏れや土砂の流出が起こり、やがて道路が支えを失ってしまうのです。
本コラムでは、なぜ道路の陥没が増えているのか、その背景にある老朽化との関係を探りながら、今できる予防と対策について考えていきます。

道路の陥没事故とは何か
陥没事故の定義と現象
「陥没」という言葉を聞くと、地震や大雨のニュース映像を思い浮かべる方も多いかもしれません。道路の表面が突然崩れ落ち、黒い穴のような空間がぽっかりと開く──あの光景です。これは単なる沈下とは異なります。沈下は地盤全体が時間をかけて少しずつ下がる現象ですが、陥没は内部に空洞ができ、それが一気に崩れることで起こります。だからこそ危険です。
道路陥没の様子をニュース等でみた、あるいは実際に現場を見たという方は、その様子に驚き、衝撃を受けたのではないでしょうか。昨日まで普通に歩いていた道路が、朝には大きく裂けている。信じがたい道路陥没の光景に、「何があったの?」「なんでこんなことに?」「今歩いている道は大丈夫なの?」などの様々な思いが浮かんでくるはずです。原因がすぐにわからないだけに、不安も広がります。
陥没事故は都市部の幹線道路だけでなく、地方の住宅街や農道でも発生します。しかも、交通量の多い道路で起これば物流や通勤に直結し、地域全体の経済活動にも影響が及びます。道路が突然使えなくなることは、私たちの日常の基盤を揺るがす出来事なのです。
陥没事故の発生状況と統計
日本では、毎年のように数百件単位で道路の陥没が報告されています。国交省や自治体の資料にもデータは残っていますが、実際にニュースや地域の声を追うと「またか」と感じるほど、各地で頻発しているのが現状です。
たとえば1960〜70年代に整備された道路や上下水道管は、すでに半世紀以上が経過しており、寿命を迎えつつあります。老朽化した管路から漏れ出した水が地盤を削り取り、空洞化を進めてしまうのです。
発生時期にも一定の傾向があります。大雨や台風の後に件数が増えるのはよく知られていますし、寒冷地では雪解けの時期に道路が沈下する事例も見られます。実際に北海道の町では、春先に生活道路が沈み込み、地域の住民が交代で交通整理をしたという話もありました。
ここ10年を振り返ると、大都市部では更新工事や点検技術の導入で件数が減ったといわれます。しかし地方や郊外では、財政や人員不足から対策が後回しになり、発生件数が目立っています。陥没は自然現象だけでなく、社会的な事情とも深く結びついているのです。
道路の陥没事故の主な原因
地下インフラの老朽化と構造劣化
道路の陥没事故で最も多い原因は、地下に埋められたライフラインの老朽化です。
道路の下には、水道管や下水道管、ガス管、通信ケーブルなどが縦横無尽に通っています。これらは寿命が40〜50年ほどと言われますが、高度経済成長期に整備された設備の多くが、すでにその年数を超えています。
現場の作業員が「掘ってみたら管の外側が土でなく空洞だった」と語ることもあります。小さなひび割れや接合部の緩みから水が漏れ出し、その水が土砂を少しずつ運び去ってしまうのです。目に見えない場所で静かに被害が進むため、気づいたときには陥没が目前ということも珍しくありません。
外的要因による地盤の不安定化
陥没は老朽化だけで起きるわけではありません。周辺で行われる大規模工事や掘削作業も要注意です。地下鉄や共同溝の建設、ビルの基礎工事では大量の土砂が動かされます。このとき、周囲の地盤が少しずつ緩み、道路にひびや段差が生じる場合があります。
第1章でも触れましたが、自然も容赦しません。豪雨や台風で地盤が洗掘され、地震の揺れで舗装や路盤に亀裂が入ることもあります。寒冷地では、冬の間に凍った地盤が春先に融け、その繰り返しで内部が脆くなります。昔、雪解け水で地面がふやけた農道を軽トラックが通っただけで陥没した、という話もあるほどです。
複合的要因による陥没の発生
最近の陥没事故は、原因が一つとは限りません。
老朽化した下水道管の亀裂に豪雨が重なり、さらに近所で行われていた掘削工事の振動が加わって、一気に崩落したという事例もあります。
こうした複合要因は予測が難しく、机上の計画だけでは防ぎきれません。現場を歩いて異変を感じる職員の感覚や、市民からの通報が、予防の決め手になることも多いのです。「おかしいな」と思ったら、それは見逃すべきではないサインかもしれません。
さらに近年は、都市部の密集した地下空間で多様なインフラが交差しているため、一つの要因が連鎖的に他の要素を刺激し、被害を拡大させるケースも指摘されています。こうした背景を踏まえると、陥没は単なる老朽化や施工不良だけでは語れない、複雑で広範な問題であることがわかります。
老朽化と陥没の関係性を深掘り
社会インフラ老朽化の現状
日本の道路と地下インフラは、戦後の復興期から高度経済成長期にかけて急速に整備されました。特に1960〜70年代には、大都市圏から地方まで一気に道路網や上下水道管が整備され、都市機能を支える基盤となりました。しかし、それから50年以上が経過し、多くの施設が設計寿命を迎えています。
国土交通省の調査によれば、2030年までに約4割の道路橋や上下水道管が耐用年数を超える見込みです。更新には莫大な費用と人員が必要ですが、財政制約や人手不足から改修が後回しになるケースも少なくありません。こうした背景が、道路陥没の根本的な原因の一つとなっています。
老朽化が陥没を引き起こすメカニズム
老朽化と道路陥没の関係は、地下で静かに進行します。たとえば、老朽化した下水道管の小さなひび割れから漏れ出した水が、周囲の土砂を少しずつ流し出します。この現象は長期間にわたり目に見えない場所で進み、やがて管の周囲に空洞が形成されます。
空洞は徐々に拡大し、地盤の支持力が低下していきます。そして、車両の重量や地震の揺れなどの外的要因が加わった瞬間、道路表面が一気に崩れ落ちる──これが典型的な老朽化由来の陥没発生プロセスです。つまり、直接的な原因は「空洞化」ですが、その根底にあるのは老朽化の進行です。
老朽化と他の原因が重なる危険性
老朽化した道路や管路は、それだけでも陥没のリスクを抱えています。
しかし実際の現場では、単独の老朽化よりも「他の要因が重なることでリスクが増幅する」ケースが目立ちます。
たとえば、地震や豪雨といった自然災害が発生した際、老朽化した設備は健全なものよりも損傷しやすく、二次的な被害を引き起こしやすいのです。あるいは、交通量の多い幹線道路で繰り返し大型車両が通行することで路盤が弱まり、老朽化部分が一気に陥没へとつながることもあります。
このように、老朽化は単独で危険性を持つだけでなく、他の外的要因と結びつくことで被害を加速させる「弱点」となります。そのため、定期点検だけでなく、周辺環境や利用状況を踏まえた総合的なリスク管理が重要といえるでしょう。
道路陥没事故を防ぐための点検・予防技術
最新の点検技術と空洞検知
道路の陥没事故を未然に防ぐためには、目に見えない地下の状況を正確に把握することが欠かせません。従来は目視点検や打音検査が主流でしたが、近年は技術が進歩し、地中レーダー探査や地盤変位センサー、AI解析による異常検知が導入されています。
地中レーダー探査では、道路の下にある空洞や異物を電磁波で探知、それにより陥没の原因となり得る箇所が特手できるのです。また、AIを活用すれば、過去の陥没事例や老朽化データと照合して危険度を数値化し、優先的に補修すべき区間を判断することも可能です。
老朽化インフラの補修・更新方法
老朽化が進んだ道路や管路は、早期の補修・更新が不可欠です。
特に近年注目されているのが「非開削工法」です。これは道路を大きく掘り返さずに地下の管路を修復・交換する方法で、交通への影響を最小限に抑えながら老朽化の原因を取り除くことができます。
代表的な方法としては、既存の管の内側に新しいパイプを挿入して補強する更生工法や、劣化した部分を樹脂やモルタルで補修する内面補修工法があります。これらの工法は、陥没の直接的な原因となる管路破損を防ぎ、道路の寿命を延ばす効果があります。
予防保全の重要性と維持管理計画
道路陥没を本気で減らすには、起きてから修復するのでは遅い──そう考える人が増えています。そこで注目されているのが「予防保全」という考え方です。目に見える損傷が出る前に点検や補修を行い、老朽化が原因となるリスクを早めに取り除いてしまうのです。
国や自治体も、道路やインフラの健全度を数値化して「どの区間から優先的に更新するか」を判断する仕組みを整えています。ただし、現実には予算や人員が限られているため、すべての道路で同時に対策を進めるのは困難です。だからこそ、交通量が多い幹線道路や危険度が高い区間から着手する必要があります。
また、市民が気づいた異常を行政に伝え、それを基に事業者が迅速に補修へ動けるような流れを作ることも重要です。予防保全は、行政だけの仕事ではなく、地域の人々と一緒に進めていく取り組みだと言えるでしょう。
国内外の事例と教訓
日本国内の陥没事故主要事例
日本では、都市部・地方のいずれでも道路の陥没が発生しています。
2016年の福岡・博多駅前の大規模陥没は、地下鉄延伸工事に伴う地盤流出が主因とされ、道路が大きく崩落しました。老朽化が主因のタイプとは性格が異なるものの、事前の地盤調査や施工時のリスク管理の重要性を社会に強く示した事例です。
一方、老朽化した下水道管の損傷が発端となり、漏水→土砂流出(空洞化)→舗装崩落という連鎖で生活道路が陥没するパターンは、首都圏を含む各都市で繰り返し確認されています。非開削の更生工法など、計画的な更新と予防保全が事故の未然防止に直結します。
海外の事例と特徴
米国フロリダ州では、カルスト地形(石灰岩の溶食)に由来する自然のシンクホールが道路や住宅地に影響を及ぼします。豪雨や地下水位の急変、揚水などが誘因となり、インフラの老朽化が重なると被害が拡大しやすい点が指摘されています。
欧州の一部都市では、長期使用された上・下水道管の更新遅れが豪雨時の破損・漏水を通じて道路の空洞化・陥没を引き起こす事例が報告されています。歴史的インフラの計画的更新と高リスク区間の優先対策が要点です。
事例から得られる教訓
実際の陥没事故を追ってみると、きっかけは空洞化や地盤流出といった目に見える現象でも、その裏側には老朽化の影響が隠れていることが少なくありません。ここから学べるのは、単に壊れた場所を直すだけでは不十分だということです。
大切なのは、表に出ていない劣化をどう見抜くか。非破壊検査やモニタリングを活用し、まだ問題が小さいうちに手を打つ姿勢が欠かせません。更新工事にしても「どこから始めるか」をはっきりさせ、交通量が多い道路や危険度の高い区間から優先的に取り組む必要があります。さらに、市民が気づいた小さな異変を行政が受け止め、事業者の行動につなげる仕組みも重要です。結局のところ、事故を減らすかどうかは、こうした細やかな積み重ねにかかっているのです。
市民・事業者・行政の役割
市民が担う早期発見の目
道路の陥没は、発生の直前に小さな兆候を見せる場合があります。舗装面のひび割れや局所的な沈み、マンホール付近の異常な凹みなどは、陥没の原因となる空洞化が進行しているサインかもしれません。
市民が日常の中でこうした異常に気付き、自治体や道路管理者に通報することは、早期対応につながります。近年はスマートフォンを使った通報アプリや自治体のオンラインフォームも整備されており、通報のハードルは下がっています。
事業者による適正施工と予防管理
ライフラインや建設関連の事業者は、工事や設備更新の際に道路や地下インフラに負荷を与えないよう、適切な施工管理を行う責任があります。
特に老朽化した道路や管路が存在する地域では、施工振動や掘削の影響を最小限に抑える工法を選ぶことが重要です。また、設備の維持管理においては、老朽化を原因とする漏水や破損を未然に防ぐため、定期的な検査や早期補修を実施する必要があります。
行政の計画的更新と情報共有
道路や地下インフラの維持管理は、最終的には行政が舵を取ります。ただし現実には、予算や人員に限りがあるため、全ての道路を一度に直すことはできません。だからこそ、危険度が高い場所や交通量の多い区間から優先して更新していく、そんな判断が常に求められています。
最近では、市民からの通報や事業者による点検結果をまとめて管理し、すぐ現場対応につなげる仕組みを整える動きも広がっています。例えば「道路が沈んでいる」「マンホール周りが不自然にへこんでいる」といった通報が早ければ、それだけ事故を防ぐ可能性は高まります。
そして、万が一陥没事故が起きてしまった場合は、その原因を調査し、再発防止策を分かりやすく公表することが欠かせません。結果を隠さずに共有することで、住民との信頼関係を保ち、次の対策につなげることができるのです。
道路の老朽化と陥没の関係は、単純な因果だけでは語れません。原因は複数絡み合い、予防策にも継続的な取り組みが求められます。技術や制度が進化する中でも、現場の経験や地域の声を活かした対応が不可欠です。そして、それらの取り組みが長期的に機能してこそ、安全で安心できる社会基盤が維持されます。
まとめ
道路の陥没事故は突然起きるように見えますが、その多くは長い時間をかけて進む老朽化や地盤の劣化が背景にあります。舗装の下に張り巡らされた水道管や下水道管、ガス管といった設備が寿命を迎えると、水漏れや破損をきっかけに土砂が失われ、見えない空洞が広がっていきます。そこへ豪雨や地震、あるいは車の荷重が重なったときに、道路は一気に崩れ落ちてしまうのです。
国内外の事例が示すのは、「老朽化を放置すれば被害が広がる」という現実です。点検や補修を先延ばしにせず、最新の技術を取り入れて早い段階で対応することが、事故を減らす近道になります。非開削工法のように交通への影響を抑えた更新方法や、AIを活用した危険度の分析は、その一助になるでしょう。
ただし、技術や制度だけでは十分ではありません。市民が小さな異変に気づいて通報し、事業者が適切な施工と維持管理を行い、行政が情報を整理して優先順位を決める──この三つが噛み合ってこそ、本当の意味での予防策になります。
道路は、私たちの日常と地域の経済を支える基盤です。だからこそ「壊れてから直す」ではなく、「壊れる前に備える」姿勢が大切になります。身近な道路を安心して歩けるようにすることは、結局は私たち自身の暮らしを守ることにつながるのです。
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