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#土木インフラの仕組み

見えないインフラをどう工事する?通信・電気ケーブルの地中化と施工方法

見えないインフラをどう工事する?通信・電気ケーブルの地中化と施工方法

歩いていて、ふと空を見上げたとき、電線が目に入ったことはないでしょうか。何気なく過ぎていく日常の風景。そのすぐ上を、通信ケーブル電気ケーブルが走っています。
けれど最近、その「当たり前」が少しずつ変わってきました。ケーブルを地上から地下へと移す「地中化工事」が、あちこちで進んでいるのです。景観のため? 災害対策? 地中化工事の理由はひとつではありません。

ただ、「地中化工事」といっても、その中身は意外と知られていません。どんなしくみで、どんな工事が行われているのか。本当に安全なのか。そもそも、地中にケーブルを通すって、どういうことなのか。

この記事では、通信ケーブル電気ケーブルの地中化について、構造や工法、課題と展望までをやさしく解説していきます。まずは、足元のインフラに少しだけ目を向けてみませんか。

能力開発校

そもそも「地中化工事」とは何か?

 なぜケーブルを地中に?──背景にある3つの理由

街を歩いていると、ふと電柱やケーブルが目に入ることがあります。普段は気にも留めないその風景ですが、最近では「ない」ことのほうが注目されるようになりました。電柱の姿が消えつつあるのです。その裏では、通信ケーブル電気ケーブルを地下へと通す「地中化工事」が各地で進められています。

こうした地中化工事の取り組みには、いくつかの理由があります。
まず挙げられるのは災害への備えです。

地上に張られたケーブルは、強風や地震で倒れた樹木や電柱によって損傷しやすく、通信や電力が一気に遮断される危険があります。地中化がされていれば、それらの危険を少しでも減らすことができるでしょう。

次にあるのが、景観の向上です。
電柱や電線がなくなることで、空が広く見えたり、街並みの美しさが際立ったりと、地域の魅力づくりにも一役買っています。特に観光地や古い町並みでは、こうした変化が好まれる傾向にあります。

そしてもう一つ。都市部では地上のスペースを有効に使いたいというニーズも背景にあります。
人や車の通行が多いエリアで、設備を地上に設置するのは難しくなるばかり。そうした場所では、インフラを地下にまとめることで、安全性と効率を両立させているのです。

電柱と架空線との違いと、地中化の基本構造

これまで私たちが見慣れてきたインフラは、電気ケーブル通信ケーブル電柱を使って空中に張られているスタイルでした。この方式は、工事費が安く済み、何か問題が起きたときも点検や修理が比較的しやすいという利点がありました。

ただし、当然ながら欠点もあります。台風などで電柱が倒れると、その影響は周囲に大きく及びますし、交通や避難の妨げにもなりかねません。

そこで登場するのが地中化工事です。ケーブルを安全に埋設するためには、専用の保護管(ケーブル管路)を設置し、その中に配線を通す方法がとられます。また、メンテナンスや点検を行うために、ある一定の距離ごとに「ハンドホール」と呼ばれる地下の点検口を設けることも必要です。
この構造により、インフラは表から見えなくなり、街の景観も大きく変わりますただ、見えなくなったからといって存在感が消えたわけではなく、むしろその重要性はより高まっているといえるでしょう

通信ケーブルと電気ケーブル、それぞれの役割と特徴

地下に敷設されるケーブルとひと口にいっても、すべてが同じというわけではありません。大きく分けて、「通信ケーブル」と「電気ケーブル」の2種類があります。
通信ケーブルは、主にデータの送受信を担う線です。電話やインターネット回線、映像伝送など、情報の通り道として私たちの生活に欠かせない存在です。
一方の電気ケーブルは、いわばエネルギーの通路。家庭や商業施設、街灯などに電力を届ける役割を担っています。

それぞれの性質によって、地中に埋めるときの工事内容も変わってきます。どちらも共通しているのは、専用の管を通して配線されるという点です。この工夫により、将来的な点検や更新作業がしやすくなり、安全性も保たれるようになっています。

通信ケーブル・電気ケーブルの地中化で使われる施工技術

地中化工事の代表的な方法──開削と非開削

通信ケーブル電気ケーブルを地中に埋めるには、専用の「地中化工事」が必要です。この地中化工事には大きく分けて2つの施工方法があります。ひとつは「開削工法(かいさくこうほう)」、もうひとつは「非開削工法(ひかいさくこうほう)」です。

開削工法は、道路などの地面を掘り下げてケーブルを埋設する、最も一般的な方法です。具体的には、浅く長い溝(トレンチ)を掘り、そこにケーブル管を設置したのち埋め戻します。都市部でもよく使われる工事方法ですが、交通規制や騒音への配慮が必要となります。

一方、非開削工法は地表を掘らずに地中に空間を作ってケーブルを通す技術です。代表的なものに「推進工法」や「HDD工法(水平ボーリング)」があります。これらは、地上への影響を最小限に抑えつつ、通信ケーブル電気ケーブルを通すことができるため、交通量の多い幹線道路下などで重宝されている工事方法です。

適用シーンの違いと工法選定の基準

施工方法の選定は、現場の条件に大きく左右されます。
例えば、住宅街の生活道路のように交通量が比較的少ない場所では開削工法が選ばれやすく、作業スペースが広く取れない都市中心部や幹線道路では非開削工法が使われます。

さらに、地中の既存設備(上下水道やガス管など)との干渉、地盤の性質、水位の高さなども考慮されます。とくに地中化工事では、電気ケーブルの安全な敷設のために適切な絶縁距離や深さが求められるため、工法の精度や施工管理能力が重要になります。
通信ケーブルについても、信号の伝送効率や外部からの干渉を避けるために、他のケーブル類との距離や配置計画が慎重に設計されます。これらの条件を満たす施工方法が選ばれるのです。

通信ケーブルと電気ケーブルで異なる施工の注意点

地中化工事において、通信ケーブル電気ケーブルは、見た目は似ていても求められる設置条件や安全対策が大きく異なります。

まず、電気ケーブルは高電圧を扱うため、周囲の土壌への熱放散や絶縁性が重要です。誤って他の配管と接触したり、地下水に浸かると漏電や火災のリスクが高まるため、特殊な防護材や深い埋設が必要とされることがあります。

一方、通信ケーブルは電流ではなく情報を伝える線です。そのため、ノイズや磁場の影響を極力受けないよう、ほかのケーブルと距離を取る、あるいはシールド材で保護するなどの工夫が必要です。さらに、将来的な増設やメンテナンスを考慮して、余裕のあるスペース設計がされることもあります。
また、施工時には通信ケーブル電気ケーブルを一括で敷設することもありますが、その際にも配線経路やダクトの構造は別々に設け、明確に分離管理されます。これにより、故障時の影響範囲を限定でき、点検や交換作業も効率的に行えるようになります。

ケーブルは地中でどう通っている?見えない構造に迫る

ケーブル管路の構成と素材

地面の下に通された通信ケーブル電気ケーブルは、むき出しの状態で埋められているわけではありません。安全性と耐久性を確保するために、まず「ケーブル管路」と呼ばれる保護管の中に収められています。

ケーブル管路の材質には、ポリエチレン管塩化ビニル管鋼管などが使われます。これらの管は、外部からの圧力や水分、土砂の浸入を防ぐ役割を担い、地中化工事において不可欠な要素です。管路の本数や口径は、通すケーブルの種類や量、将来的な増設の可能性を踏まえて決定されます。
また、地盤が不安定なエリアでは、埋設深度や支持構造にも工夫が必要になります。たとえば、地震時の地盤変動に耐えるために、可とう性の高い素材を用いたり、緩衝材を併用することもあります。

ハンドホールの役割とは?──メンテナンスのための地下空間

通信ケーブル電気ケーブルを地中に埋めたとしても、それで終わりではありません。長い年月のなかで、ケーブルが劣化したり、想定外のトラブルが起きたりすることはどうしても避けられません。そんなとき、点検や修理をどう行うか。そこに必要なのが「ハンドホール」という設備です。

ハンドホールは、地下に設けられた点検用のスペースです。見た目はマンホールに近く、実際にはその下に作業空間が広がっています。ケーブルの分岐点や接続部が集約されており、異常が起きた際の調査や、日常的な確認作業に使われます。

このハンドホール、設置すればよいというものではありません。地中化工事では、どこに、どのサイズで、どんな構造で設けるかが非常に重要です。というのも、都市の地下には上下水道、ガス管、電力、通信、地下鉄など、さまざまなインフラが張り巡らされているからです。場所によっては、少しずれるだけで他の管路と干渉してしまうこともあります。
それでも、通信ケーブル電気ケーブルを安全かつ確実に管理するには、ハンドホールが欠かせません。内部ではケーブルが乱れないように整理され、どれがどこにつながっているのかがすぐにわかるよう、ラベルや記録も整備されています。こうした細かな仕組みが、将来的な保守のしやすさや、突発的な対応の速さにつながっているのです。

通信・電力を支える地下ネットワークの現実

都市の地中には、見えないケーブルネットワークが張り巡らされています。通信ケーブル電気ケーブルは、性質や保守管理の要件が異なるため、原則として別々の管路に分けて敷設されます。それぞれのケーブルが交差しないよう、立体的に経路を計画することが必要です。

たとえば、電力系統は道路の片側に、通信系統は反対側にといったように分離して敷設されるケースもあります。こうした設計により、万が一のトラブル時にも影響範囲を最小限に抑えることができます。
また、最近では都市開発と連動して地中化工事が行われる機会も増え、将来的なインフラの拡張性を見越した「先行敷設」も行われています。これは、将来使う予定の通信ケーブル電気ケーブル用の空配管をあらかじめ設けておくことで、後から地面を掘り返す必要をなくす工夫です。
このように、私たちの足元には高度な設計と施工によって構築された、見えないインフラネットワークが存在しており、日々の生活を支えているのです。

地中化工事のメリットと課題

景観・防災・安定供給を支える地中化の利点

地中化工事によって得られる最大のメリットのひとつは、景観の改善です。都市部でも住宅街でも、頭上に張り巡らされた通信ケーブル電気ケーブルが取り払われることで、街並みがすっきりとし、開放的な印象になります。観光地や歴史的な地域では、その効果はより顕著です。

次に挙げられるのが、防災性の向上です。日本は台風や地震などの自然災害が多く、架空のケーブルは風や倒木による切断のリスクが高いと言われています。地中に配線されたインフラであれば、そうした物理的損傷を受けにくく、通信や電力の供給を継続できる可能性が高まります

さらに、供給の安定性保守性の向上も見逃せません。地中に設けられたケーブル管路やハンドホールにより、通信ケーブル電気ケーブル定期的に点検・更新できる仕組みが整っており、長期的な安全運用が可能です。周辺に交通の妨げが少ない場所では、トラブル発生時の対応もしやすくなります。

 避けられないコストや工期、整備のハードル

ただし、地中化工事には数々の課題も存在します。最も大きなハードルのひとつは、高コストです。地中化工事は開削・非開削を問わず、掘削作業や管路設置には時間と資材がかかり、架空線と比べて数倍の工費がかかることもあります。

さらに、工期の長さも無視できません。道路占用の許可申請、地中の埋設物調査、周辺住民との調整、交通規制の設定など、実際の着工前に必要な準備が多岐にわたります。特に都市部では、既存の電気ケーブル通信ケーブルとの干渉を避けながら施工する必要があり、細心の注意が求められます。
また、整備エリアの偏りも課題です。大都市圏では地中化工事が進んでいる一方で、地方では予算や需要の関係から導入が進みにくく、インフラの地域格差が広がる可能性があります

通信ケーブルと電気ケーブルの保守の違い

通信ケーブル電気ケーブルでは、施工後の保守にも違いがあります。電気ケーブルは高電圧を扱うため、点検や修理の際には専門の保安管理者が必要であり、安全対策にも多くの配慮が必要です。誤って破損させた場合には感電や停電のリスクが伴うため、慎重な作業が求められます

一方の通信ケーブルは、比較的低リスクではあるものの、ノイズや劣化による信号不良などが発生しやすく、精密な検査が重要になります。また、情報漏えいや通信断のリスクもあるため、技術的な知識と経験が保守対応には必要とされます。
電気ケーブル通信ケーブル、それぞれのケーブルに適した保守体制を維持することが、地中化工事の成功に欠かせない条件のひとつです。

これからの地中化工事──スマートシティと未来インフラ

 国や自治体が進める地中化の整備計画

ここ数年、地中化工事は単なる景観改善策ではなく、「防災」と「都市のレジリエンス強化」を目的としたインフラ政策として注目されています。国土交通省をはじめとする行政機関は、災害に強い都市づくりを推進する中で、通信ケーブル電気ケーブルの地中化を重要な施策と位置付けています。

たとえば「電線類地中化推進計画」では、緊急輸送道路や避難路など、人命に関わる道路を中心に、段階的に地中化を進める方針が示されています。地方自治体においても、地域独自のインフラ整備計画に基づき、ケーブル地中化が取り入れられるケースが増えています。

こうした公的支援が進む一方で、民間事業者との連携も進んでおり、通信会社や電力会社が共同で地中化工事に取り組む事例も見られます。都市の再開発と同時にインフラ整備を行うことで、効率的かつ計画的なネットワークの構築が可能となります。

 通信と電力の一体整備に向けた新技術

今後のインフラ整備において鍵を握るのが、通信ケーブル電気ケーブルの一体的な敷設と管理です。現在は用途ごとに分離して敷設されるのが一般的ですが、将来的には「統合型インフラ構造」が主流になると見られています。

たとえば、スマートシティの実現に向けては、IoTデバイス監視カメラ環境センサーなどのデータを高速に伝送できる通信ケーブル網が不可欠です。これらを都市の地下に張り巡らせるには、エネルギー供給を担う電気ケーブルとの物理的・論理的な統合が求められます
また、近年では「マイクロトレンチ工法」や「プレキャストダクト方式」など、よりコンパクトで短期施工が可能な新しい技術も登場しており、これらを活用することでコストや工期の課題を克服しやすくなっています。地中化工事は、今後ますます「スマート施工」へと進化していくといえるでしょう

地中化工事に求められる技術者と人材育成

将来的なインフラ強靭化を支えるには、通信ケーブル電気ケーブルに精通した技術者の育成が不可欠です。特に地中化工事では、土木技術、電気設備工事、通信システムに関する総合的な知識が必要とされるため、専門性の高い人材が求められます。
現場では、狭隘な空間での掘削技術や、安全確保のための作業手順、既存インフラとの干渉回避といった高度な判断力が問われます。さらに、BIM/CIM(3次元モデル活用)などのデジタル技術を活用した施工管理も進んでおり、ITスキルも欠かせません。

産業界では、こうしたニーズに応えるために専門教育の拡充やOJT型研修が行われています。未来の地中化工事を担う人材が、スマートシティの中核を担う日もそう遠くないでしょう。

まとめ

私たちの暮らしを支えている通信ケーブル電気ケーブルは、日常の中ではなかなか意識されることのない存在です。しかし、これらのインフラが目に見えない地中へと移される地中化工事」は、災害に強く、美しい街並みを実現するうえで欠かせない取り組みです。

地中にケーブルを通すには、開削工法非開削工法といった専門技術が必要であり、地中構造や周辺インフラとの調整、保守性までを考慮した綿密な設計が求められます。また、通信ケーブル電気ケーブルでは機能や施工条件が異なり、それぞれに適した工法や管理手法が発展してきました。
さらに、スマートシティや次世代インフラの推進により、地中化工事の役割はますます広がりを見せています。高度な情報ネットワークと電力供給網を地下で一体整備する流れが加速しており、それを支える技術者や人材の育成も急務となっています。

「見えないインフラ」は、決して見えなくてよいわけではありません。その仕組みを知ることで、私たちの社会がいかに繊細で複雑な支えの上に成り立っているかを再認識できるのではないでしょうか。通信ケーブル電気ケーブルの地中化は、未来の都市づくりを支える静かな革命なのです。

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