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#土木インフラの仕組み

防災インフラとは?災害に強いまちをつくる整備のしくみ

防災インフラとは?災害に強いまちをつくる整備のしくみ

日本は地震や台風、豪雨など多様な災害に直面する国です。自然災害が「想定外」ではなく「日常の延長」にあると言えるでしょう。こうした現実に立ち向かううえで重要なのが、災害への対策を社会全体で共有し、実装していくための「防災インフラ」です。
しかし、防災インフラは単なる堤防や避難施設といった建物や設備だけではありませんまち全体のしくみとして、制度・地域・技術が連携しながら災害対策を機能させていくことこそが、本来の防災インフラの姿です

本コラムでは、その“しくみ”に焦点を当て、どうすれば災害に強いまちを築けるのか、防災インフラ整備の実際や、今求められる対策の考え方について詳しく解説します。

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防災インフラの「しくみ」とは?

「施設」だけではない、防災インフラの本質

防災インフラという言葉を聞くと、多くの人が堤防や避難所、耐震補強された橋やトンネルといった「構造物」を思い浮かべるでしょう。たしかにそれらは災害対策の中核を担う重要な存在ですが、防災インフラの本質はもっと広い「しくみ」にあります

たとえば、災害リスクを事前に評価し、それに基づいて施設をどこにどのように配置するかを計画する段階から、すでに防災インフラの整備は始まっています。ハードの整備だけでなく、気象情報の収集・発信体制、避難情報の伝達経路、住民との情報共有手段など、ソフト面との連携が不可欠です

防災インフラは“循環”で成り立つ社会的基盤

防災インフラは、つくって終わりではありません。使いながら見直し、直しながら育てる――そんな循環こそが、社会に根づくインフラのかたちです。その背景には、国や自治体、民間企業、そして地域住民といった多様な主体の協力があります災害対策は、これらの連携なしには成立しません

また、災害の種類によっても整備の方向性は大きく異なります。地震に対しては耐震性柔構造が重視され、水害には排水路調整池が、土砂災害には擁壁砂防えん堤が必要となります。それぞれの施設はバラバラに設けられるのではなく、まち全体が連携するように、配置や設計が工夫されています。

ソフトとハードの融合が災害に強いまちをつくる

現代の防災インフラに求められるのは、構造面の強化だけではありません。災害に備えるには、制度設計情報の流通住民との信頼関係の構築といったソフト面との融合が重要です。

たとえば、災害発生時の避難指示をスムーズに伝える情報インフラ、自治体と地域住民が共同で行う避難訓練、AIやIoTを活用した被害予測システムなどが挙げられます。これらを組み合わせてこそ、防災インフラは真の力を発揮します。
次章では、災害の種類ごとに異なる防災インフラの特徴と対策の方向性について、さらに具体的に見ていきましょう。

災害の種類とそれに応じた防災インフラ

災害ごとに異なる「守り方」がある

一口に災害といっても、その種類は多岐にわたります。地震、津波、台風、大雨、洪水、土砂災害、さらには火山噴火など、地域や季節によって発生するリスクは異なります。そして、それぞれの災害に対して最適な防災インフラのかたちは変わってきます

たとえば、地震に強いインフラは、地盤の液状化を防ぐ基礎構造や、建物や橋梁の耐震・免震・制震構造が中心です。津波対策としては、防潮堤水門避難タワーの整備が求められます。一方で、大雨台風への対策では、雨水の一時貯留施設(調整池)や排水ポンプ場下水道の高規格化などが不可欠です。

地形や歴史を踏まえたインフラ整備の必要性

地域ごとの地形や災害履歴を踏まえたインフラ整備も、防災の重要なポイントです。たとえば、山間部では土砂災害の危険が高いため、砂防ダム擁壁法面保護といった対策が中心になります。都市部では逆に、人口密度の高さが避難行動を難しくするため、避難路や広場の整備交通誘導の仕組み防災インフラとして重要になります。

また、過去の災害から何を学び、どう対策を進めてきたかという歴史的な視点も見逃せません。たとえば、関東大震災後に進んだ不燃化建築の導入や、東日本大震災を受けた海岸インフラの強化などは、防災インフラが時代とともに進化してきた証でもあります。

複合災害への備えが求められる時代へ

近年は、災害が単独ではなく複合的に起きるケースが増えてきました。たとえば、地震と同時に発生する火災や津波、大雨の影響でダムの崩壊や河川の氾濫が誘発されるケースなどです。こうした複合災害への対策には、個別のインフラだけでなく、全体の防災システムとしての整備が求められます。

そのためには、災害の種類に応じて防災インフラを適切に組み合わせ、柔軟に対応できる「連携型」のまちづくりが不可欠です防災インフラは単体ではなく、災害リスクに応じた全体設計のなかで機能してこそ、真価を発揮するのです。

防災インフラ整備の流れと関係機関の役割

防災インフラ整備はどこから始まるのか?

防災インフラの整備は、突然施設を建設するわけではなく、長期的な計画に基づいて段階的に進められます。まず重要なのが、「災害リスクの把握」です。地形や地質、気象データ、過去の災害記録などをもとに、被害の想定範囲や頻度を分析しますこれにより、防災上の課題が明確になり、必要な対策の方向性が見えてきます

次に、国や自治体が中心となって防災計画を立案し、優先順位に応じてインフラの整備が始まります。たとえば、都市部では老朽化した排水施設の更新が急務とされる一方、山間部では土砂災害に対する緊急的な砂防施設の整備が求められる場合もあります。このように、対策は地域の特性に応じて変化し、現地調査や住民の声も取り入れながら進められます。

多様なプレイヤーがかかわる「しくみ」

防災インフラの整備には、さまざまな主体が関与します。基本的には都道府県市区町村などの行政機関が主導し、公共事業として計画・発注が行われます。具体的な設計や施工は民間の建設会社コンサルタントが担い、点検や維持管理もまた専門の技術者によって行われます。

さらに、地元住民や地域団体との連携も不可欠です。避難所や防災倉庫の設置場所を決める際には、地域の実情や住民の動線を考慮する必要があります。また、完成した防災インフラが有効に機能するためには、日常的な防災訓練情報共有のしくみが必要です。こうしたソフト面の整備も含めて、災害対策は進められていきます。

維持管理と更新が支えるインフラの信頼性

防災インフラは一度つくれば終わりではなく、継続的な維持管理と定期的な更新が欠かせません。たとえば、堤防のひび割れ橋梁の腐食など、目に見えない劣化が大きなリスクにつながることがあります。そのため、専門機関による定期点検と、それに基づく補修・更新工事が行われます。

また、近年は老朽インフラが全国的に増えており、限られた予算の中で効率的に対策を講じる必要が出てきています。ここでもICTAI技術の活用が進み、点検作業の効率化予測メンテナンスが導入され始めています。インフラの整備はハード面の構築だけでなく、持続可能な運用体制をいかに構築するかが問われているのです。

近年の課題と新たな防災対策の考え方

想定を超える災害が常態化する時代に

かつては「百年に一度」とされた災害が、いまや毎年のように起きる時代になっています。台風の大型化、局地的豪雨の頻発、さらには地震活動の活発化など、自然の脅威は私たちの予測を超える速さで進化しています。気候変動の影響により、災害の規模や発生パターンがこれまでの常識では通用しなくなってきているのです

このような背景から、防災インフラ整備にも新たな発想が求められています。従来の「過去の災害から学ぶ」対策だけでなく、「未来の災害を想定する」柔軟な対応が不可欠です。たとえば、従来の洪水対策だけでなく、都市部の内水氾濫や河川の逆流といった複雑な事象への備えも必要となってきました。

ハードとソフトを組み合わせる多層的な備え

これまでの防災対策は、堤防耐震補強といったハード整備が中心でした。しかし、近年では「ハード×ソフト」の組み合わせによる多層的な防災インフラの構築が主流となりつつありますソフト対策とは、防災教育、避難訓練、災害時情報の迅速な伝達体制、自治体と住民の連携など、人の行動や情報に関わる部分を指します。

たとえば、避難指示が適切に発信されても、住民がそれを正しく理解し迅速に避難しなければ、被害は防げません。そのため、防災インフラの整備には、避難経路の整備や情報伝達手段の確保に加えて、日常的な意識づけや訓練が欠かせないのです。

災害時に命を守るのは、設備だけではありませんそこに住む人々の判断や行動が加わって、ようやく“災害に強いまち”ができあがるのです

「自助・共助・公助」が支える防災の土台

もうひとつ注目すべき視点が、「自助・共助・公助」という3つの支援のあり方です。自助とは自分の身を自分で守る力、共助は地域内での助け合い、公助は行政や国の支援を指しますどれかひとつが欠けても、防災対策は万全とは言えません

防災インフラも、この三本柱に支えられています。たとえば、行政が整備した防災施設(公助)を、地域の人々(共助)が維持管理し、個人(自助)が正しい情報をもとに避難行動をとる――この連携が機能してこそ、真の意味での災害対策となるのです。

そして、近年ではこの「共助」の重要性が特に注目されています。災害発生から公的支援が届くまでの“空白の時間”を埋めるのは、地域コミュニティの力に他なりません。そうした意味でも、まちの防災力インフラだけでなく、日常的なつながりの強さによって決まると言えるでしょう。

進化する防災インフラとテクノロジー

テクノロジーが変える災害対策の現場

近年、防災インフラの整備や災害対策の現場では、テクノロジーの導入が急速に進んでいますICT(情報通信技術)やAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、さらにはドローンクラウド技術など、最新技術は災害に備えるしくみを根本から変えつつあります。

たとえば、河川やダムの水位、斜面の変位、道路の陥没などを常時モニタリングするセンサーは、異常を即座に検知し、自治体にリアルタイムで警報を送信できます。これにより、災害発生前の段階で早期対策を講じることが可能になり、被害の最小化に貢献しています。

また、ドローンによる空撮や点検は、人の立ち入りが困難な場所の状況確認に役立ち、応急対応や復旧計画の精度を高めています。こうした技術の進化は、防災インフラの構築だけでなく、運用や維持管理のあり方にも革新をもたらしています

スマート防災インフラの登場

最近では「スマート防災インフラ」という言葉も耳にするようになりました。技術の力が、備えのあり方を大きく変え始めています。これは、インフラ自体が情報を収集・判断し、自動で制御を行うようなしくみを意味します。たとえば、自動的に開閉する水門や、AIが解析して最適な避難ルートを提示するナビゲーションアプリなどがその一例です。

こうしたスマート化は、災害時における人的ミスの防止や、意思決定の迅速化に寄与します。災害が刻々と変化する中で、こうしたリアルタイムの情報と自動化された対策は、防災のあり方を大きく変える可能性を秘めています。

さらに、これらの技術は個人にも届くようになっています。スマートフォンによる防災アプリ、SNSを通じた情報共有、自治体のWebGIS(地理情報システム)によるハザードマップの可視化など、防災対策の情報はかつてなく身近なものになりました

技術と人が共に活かされる社会へ

ただし、いかに優れた技術を導入しても、それを正しく運用し、活用できる体制がなければ意味がありません。たとえば、最新の情報システムがあっても、使い方が住民に浸透していなければ、避難行動にはつながりません。

そのため、テクノロジーの導入と並行して、防災教育や情報リテラシーの向上もセットで進めることが求められます。人が技術を正しく理解し、信頼し、活用できる環境を整えること。それが、災害に強いまちづくりの基盤として、防災インフラに不可欠な要素となっているのです。

防災インフラの未来―持続可能性と地域力

防災とSDGs―未来に続くインフラづくり

災害に強い社会」を実現するうえで、近年注目されているのがSDGs(持続可能な開発目標)との連携です。とくに目標11「住み続けられるまちづくりを」目標13「気候変動に具体的な対策を」は、防災インフラと深く関わっています。

たとえば、災害に強いインフラを整えることで、人命や財産を守ると同時に、経済的損失を抑え、復旧にかかる社会的コストを軽減することができます。また、気候変動に対応した洪水対策や斜面崩壊防止などの施策は、自然と共存する持続可能な環境整備にもつながります。

防災インフラは「災害が起きたときの備え」だけでなく、「平時からの社会のあり方」を問い直す存在になってきているのです

地域レジリエンスを高めるには何が必要か

もうひとつ重要な視点が「地域レジリエンス」、つまり地域が災害に直面した際の回復力や適応力です。単に被害を防ぐだけでなく、被害を受けてもすばやく立ち直るしくみを備えているかが問われています。

たとえば、地域に分散配置された避難拠点や、住民主体の災害情報ネットワークなどは、災害後の混乱を最小限に抑える効果があります。また、災害時に活躍できる人材の育成や、地域の文化に根ざした復興モデルも、防災インフラの一環といえます。

これからの災害対策では、インフラを「つくる」だけでなく、「活かす」段階まで含めて設計することが求められます。地域の特性や課題に寄り添いながら、しなやかに対応できる防災インフラを築いていく必要があるのです

次世代に継承されるインフラのあり方

防災インフラの整備は、単年度の事業ではなく、長期にわたる社会的投資です。だからこそ、将来世代にとって価値ある資産として維持・更新していくことが求められます

そのためには、公共事業に対する信頼性透明性を高め、地域住民が整備の過程に関与できる仕組みを整える必要があります。また、災害対策を学校教育や地域行事のなかに取り入れることで、防災意識を次世代へと自然に受け継ぐことも可能です。

防災インフラ」はモノでありながら、人の想いや知恵の蓄積でもあります。それを未来へつなぐことこそが、災害に強く持続可能なまちづくりの土台となるのです。

まとめ

防災インフラとは、単に堤防や避難所といった“建造物”のことではありません。それは、災害による被害を防ぎ、暮らしを守るための「社会全体のしくみ」です。整備の計画から設計・施工、運用・更新にいたるまで、多くの関係者と連携しながら継続的に築かれていくものです。

本コラムでは、災害の種類に応じた対策のあり方や、整備の流れ、制度との関係性、そしてテクノロジーや地域力によって進化する防災インフラの姿をご紹介してきました。ハードとソフトが融合し、ICTやAIを活用することで、より柔軟かつ効率的な災害対策が可能になりつつあります

さらに、これからの防災インフラSDGs地域レジリエンスといった概念とも深く結びつき、単なる防災にとどまらず、「持続可能なまちづくり」の中核を担う存在へと変わっていくでしょう。私たち一人ひとりの行動や意識も、インフラの一部として機能していく時代です。

災害を完全に防ぐことはできませんが、備えていれば助かる命、守れる暮らしがあります防災インフは、そのための力強い支えになるのです。未来を見据えた防災対策を、今この瞬間から考えていくことが、災害に強い社会づくりの第一歩となるのです。

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