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建設業DXの核心に迫る!土木DXとICT施工の関係性とは?

建設業DXの核心に迫る!土木DXとICT施工の関係性とは?

建設業の現場でも、デジタル技術の導入がぐっと進んできました。
とくにここ数年は、建設業全体でDX、つまりデジタルトランスフォーメーションへの関心が一気に高まっています。なかでも土木分野では「土木DX」や「ICT施工」といった言葉がよく聞かれるようになり、現場のやり方や施工管理が大きく変わりつつあります。

ただ、こうした言葉だけが独り歩きして、「具体的に何がどう変わるのか」が伝わりにくいのも正直なところです。そこで本記事では、建設業DXの本質に迫りながら、土木DXICT施工がどう結びついているのかに焦点を当てます。現場で実際に起きている変化や、これから期待されることをわかりやすく紹介していきます。

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建設業DXとは何か?その本質を知る

建設業DXの定義と国の方針

建設業DX」という言葉は、単に紙の図面をデジタル化したり、ICT機器を導入するだけを指すわけではありません。DXの本質は、デジタル技術を活用して、業務の流れや組織のあり方自体を変革し、新たな価値を生み出すことにあります。つまり、デジタル化は手段に過ぎず、目指すべきは建設業界の根本的な変わり方なのです。

国土交通省は2016年から「i-Construction」という政策を推進し、ICTを使った土木施工の効率化を進めてきました。この取り組みは建設業DXの先駆けとも言え、測量から設計、施工、検査、さらには維持管理まで、一連の流れをICTでつなげる方向性を示しています。近年では、この動きがさらに進み、より現場に密着した土木DXとして広がりつつあります。

 建設業に特有の課題とDXで解決すべき点

建設業界は、他の業種と比べてデジタル化が遅れている分野のひとつです。
その背景には、屋外の現場で条件が毎回異なるため標準化が難しいことや、慢性的な人手不足、作業員の高齢化、そして属人的な技術への依存など、複数の構造的な問題があります。

こうした課題を解決するために、建設業DXは単なる効率化以上の役割を担っています
たとえばICT施工が導入されれば、測量や現場管理の自動化が進み、経験が浅い若手でもベテランと同じレベルの作業ができるようになります。これにより技能継承の課題にも大きく貢献できるでしょう。

また、設計や施工のデータをクラウドやAIで管理・共有することで、全体の作業を最適化し、発注者と受注者の連携も強化されます。これまでのような情報のズレや手戻りも減り、よりスムーズな施工が可能になります。

さらに、建設業DXは働き方の改善とも深く結びついています。長時間労働が常態化していた現場でも、工程や資材の管理が見える化されることで、無駄な待機時間や手戻りが減り、作業者の負担軽減に繋がっているのです。

こうした変化は、単に仕事のやり方を便利にするだけでなく、建設業のイメージや魅力を根本から変えるチャンスでもあります。建設業DXはまさに産業の転換点であり、その成功には土木DXやICT施工との連携が欠かせません。

土木DXが業界をどう変えるのか

土木DXの意味と具体的な取り組み

土木DX」とは、土木の設計や施工、管理といったあらゆる工程にデジタル技術を取り入れ、作業の効率化や精度の向上を目指す動きを指します。ただのデジタル化とは違い、人と技術、組織の関係性を根本から見直すことが特徴です。建設業DXの一部として、土木分野は特に現場での施工に密接に関わっているため、成果が目に見えやすく変化も実感しやすい分野となっています。

たとえば、土木DXでは3次元測量が標準的になってきました。これにはドローンを使った空撮や3Dスキャナーによる計測が含まれ、従来の人手による距離や高低差の測定に比べて、はるかに速く正確に終わります。取得した3Dデータはそのまま設計ソフトに反映され、BIMやCIMを活用した施工にもスムーズに繋がっていきます。

さらに、ICT対応の建設機械も土木DXの重要な要素です。自動制御機能を備えたブルドーザーやバックホウは、設計データに従って正確に動き、熟練技術者の経験に頼らずとも安定した施工が可能になります。結果として、施工品質が均一化し、現場全体の作業レベルが底上げされているのです。

施工現場で起きている変化

土木DXの浸透により、施工現場の様子は大きく変わってきました。かつては紙の図面を見ながら口頭で指示を出していた現場が、今ではタブレットや大型モニターでデジタルデータを共有し、リアルタイムで状況を確認しながら作業を進めています。

例えば、ある地方自治体の河川改修工事では、ICT施工により3D測量と施工履歴の自動記録を導入しました。その結果、設計と施工のズレをすぐに把握できるようになり、手戻りの作業が大幅に減少。工期が20%以上短縮される成功例となっています。このような事例は、建設業DX全体の中でも現場起点の成果として注目を集めています。

また、土木DXの進展は現場で働く人の環境にも変化をもたらしています。一部の作業指示はリモートで行えるようになり、現場に常駐しなくても施工の状況をチェックし、指示を出せる体制が整いつつあります。これにより、女性や高齢者、育児や介護中の技術者も柔軟に働きやすくなり、業界全体の多様性向上にもつながると期待されています

さらに重要なのは、土木DXが技術の進化だけでなく、「現場の文化」も変えていることです。
データの共有可視化によって、属人的な判断に頼る場面が減り、誰もが同じ情報をもとに動ける環境が整いつつあります。これは、経験や勘に基づく伝統的な施工管理から、論理的で効率的な方法への大きな転換を意味し、業界の信頼性向上にも大きく貢献しています。

ICT施工とは何か?基礎と応用

 ICT施工の意味と代表的な技術

ICT施工とは、「情報通信技術(Information and Communication Technology)」を施工現場に活かし、作業の効率化や品質の向上を目指す手法のことを指します。これは建設業DXの重要な柱のひとつであり、とくに土木DXを進めるうえで欠かせない存在です。

これまでの土木施工は、現地での目視確認や紙の図面を使ったアナログ作業が中心でした。しかしICT施工の導入によって、現場の作業内容は大きく変わっています。主な技術としては、以下のようなものがあります。

  • GNSS(全地球航法衛星システム)を利用した測量
    高精度な位置情報をリアルタイムに取得できるため、以前は数日かかっていた測量作業が数時間で終わるようになりました。
  • ドローン(UAV)を使った3D地形測量
    空から撮影したデータを解析し、精度の高い3Dモデルを作成。設計や施工計画の段階で地形の詳細を把握するのに役立っています。
  • ICT対応建機の活用
    設計データを搭載した建設機械が自動制御で土を削ったり盛ったりし、指定された高さや勾配で正確な施工を行います。これにより施工の品質が安定し、人手不足の課題にも対応可能です。

これらの技術は単に手間を減らすだけでなく、ミスの削減や施工品質の飛躍的な向上に貢献しています。ICT施工は現場のデジタル化を進めるための重要な要素と言えるでしょう。

ICT施工と土木DXの関係性

ICT施工土木DXは似ているようで役割が異なります。
ICT施工は「手段」であり、土木DXは「目的」です。つまり、ICT施工の技術を活用してこそ、土木分野全体のDXが実現するのです。

たとえば、ICT施工で得られた現場のデータは、設計や維持管理の段階でも活用されます。こうしたデータ連携により、施工時だけでなく、インフラの長期的なライフサイクル管理にも良い影響をもたらします。ICT施工は単独で完結するものではなく、他のプロセスと連携してこそ価値が高まるのです。

さらに、ICT施工で生み出される現場データは、建設業DXの原動力でもあります。施工履歴や施工精度、進捗状況、作業時間などの情報を蓄積し、分析や改善に活かすことができるからです。これが次の工事へのフィードバックにもなり、土木DXの核となる部分でもあります。ひいては建設業全体のあり方を変える力を秘めています。

また、ICT施工は「誰でも一定の施工精度を保てる現場」を実現します。これまではベテランでなければ難しかった重機操作も、ICT建機の導入によって未経験者でも成果を出せるようになりました。技能継承や若手育成の観点からも非常に大きな進歩といえます。

建設業DXを推し進めるには、こうしたICT施工の確実な導入が土台となります。その先に、現場の生産性向上や持続可能なインフラ整備といった未来が待っているのです。

土木DXとICT施工の融合による施工革命

 従来工法との違いと実証事例

従来の土木施工では、工程ごとに人手で情報が伝達され、紙の図面を中心とした管理が主流でした。このため、設計と施工の間にズレが生じたり、現場での手戻り作業が頻発するなど、多くの非効率が存在していました。

しかし、土木DXとICT施工が組み合わさることで、こうした課題は大きく改善されつつあります。
特に、施工の「見える化」と「データ連携」が実現されたことは画期的です。設計段階から3次元モデル(BIM/CIM)を作成し、そのデータをICT建機やドローンと連携させることで、設計通りの形状を正確に再現する施工が可能になってきました。

たとえば、ある高速道路拡幅工事の現場では、初期段階から土木DXを導入。3D設計データをICT建機に読み込ませて施工し、さらに施工後はドローンで出来形を測量、自動的に比較・評価するシステムを使いました。その結果、手戻り作業はほぼゼロに近づき、作業時間は従来より約30%短縮。加えて品質のバラつきも減少し、発注者からの信頼度が大幅に向上したと報告されています。

こうした取り組みは単なる作業効率の向上を超え、施工のあり方そのものを変革する動きと言えるでしょう。これまでは「経験や勘」に頼っていた現場作業が、データに基づいた判断とチーム内での情報共有へと進化しています。

現場が変わる:施工管理のリアルタイム化

さらに注目すべきは、施工管理の方法が根本的に変わってきたことです。
土木DXICT施工の連携によって、作業の進捗状況や施工精度、安全管理などの情報をリアルタイムに把握できるようになりました。現場に設置されたセンサーやカメラ、作業員のウェアラブルデバイスから送られるデータは、遠隔地のオフィスでも即座に確認可能な体制を構築しています。

例えば、トンネル工事のように複雑な作業を伴う現場では、掘削位置や支保工の進捗をタブレットでチェックしながら施工が進められています。これにより、現場責任者が必ずしも現場にいなくても状況を把握でき、複数拠点の同時管理も可能に。施工現場の「時間や場所の制約」が緩和され、管理の質が格段に向上しています。

また、この仕組みは人材育成や技能継承の面でも効果を発揮しています。熟練技術者のノウハウが3Dデータや操作ログとして蓄積され、若手技術者の教育が体系的に行えるようになりました。建設業DXが掲げる「人にやさしい現場づくり」は、こうした技術融合によって実現されつつあります。

このように、土木DXとICT施工の融合は、単なる技術革新にとどまらず、施工に対する考え方や進め方、働き方までも大きく変えています。この変革こそが建設業全体の競争力強化につながり、次世代のインフラ整備を支える重要な鍵となるでしょう。

建設業DX推進のための課題と展望

技術導入の壁と人材不足

これまでの章で述べた通り、土木DXやICT施工は大きな効果をもたらしています。しかし、建設業DXが全国の現場に十分に浸透しているとは言い難いのが現状です。その背景には、「導入コスト」と「人材確保」の難しさが大きな障壁となっています。

特に中小規模の建設会社にとっては、ICT機器の導入にかかる初期費用が重い負担です。たとえば、3D測量用のドローンやICT建機、専用の解析ソフトなどは高額な投資が必要です。また、これらを使いこなすための教育時間や費用も無視できません。そのため、導入したくても踏み切れない現場が少なくないのです。

さらに、人材不足も深刻な問題です。
建設業界全体、特に土木分野では高齢化が進み、熟練技術者の退職が相次いでいます。一方で若手の定着率は低く、ICTに精通した人材の育成が追いついていません。土木DXや建設業DXを推進するためには、こうした若手人材の確保と育成が不可欠ですが、業界全体での対応が課題となっています。
このように、「技術」「人」「コスト」の三つが絡み合い、地域や業態ごとにDXの進展に差が生まれていることが、大きな課題と言えるでしょう。

今後求められるDX人材像

こうした課題を乗り越えるために必要なのは、単に機器を揃えるだけでなく、それを自在に使いこなせる人材”の育成と適切な配置です。では、これからの土木業界にはどのような人材が求められているのでしょうか。

まず重要なのは、「土木とITを融合させたハイブリッド技術者」です。現場の作業内容を理解しながら、ICTツールやデータ分析にも精通した人材はますます必要とされています。設計から施工、維持管理までデジタルで最適化できる力を持つ人が、建設業DXを大きく前進させる鍵となるでしょう。

次に求められるのは、現場と経営層、さらには発注者との橋渡し役です。土木DXやICT施工を導入するには、技術だけでなくコスト管理や業務プロセスの見直し、関係者調整なども重要です。そのためマネジメント力やコミュニケーション力を兼ね備えた人材が求められる時代に入っています。

こうした動きを受け、国や自治体は「建設業DX人材の育成」を政策の重要課題に位置づけています。専門学校や職業訓練校では、3D施工管理やICT建機の操作を学べるカリキュラムの充実が進んでおり、教育現場にも変化が現れています。

最後に忘れてはならないのが、現場での「心理的ハードル」を下げることです。どんなに高度なICT技術も、使いこなせなければ意味がありません。操作が直感的でわかりやすいシステムの開発や、年齢や経験を問わない教育体制の整備が、土木DX・建設業DXの真の普及には欠かせません

建設業DXと土木DXはなぜ不可分なのか?

インフラ整備の現場における一体化の必要性

これまでに説明してきたように、建設業DXは業界全体の構造改革を推進する大きな枠組です。
その中で、土木DXICT施工は現場に根ざした具体的な実践として重要な役割を果たしています。つまり、土木DX建設業DXの実働部隊とも言える存在であり、両者は切り離せない関係にあります。

インフラ整備は計画、設計、施工、維持管理といった複数のフェーズが連携して初めて成り立つものです。これら各段階が個別にデジタル化されても、建設業DX全体としての効果は限定的です。土木DXは施工現場でICTを活用し、情報共有を円滑にする役割を担い、建設業DXは組織運営や公共調達のデジタル化を推進します。こうした連携によって初めて、インフラ整備全体のDXが実現されるのです。

例えば、災害復旧工事の現場では、建設業DXが推し進めるクラウド技術と土木DXによる迅速な現場把握が組み合わさり、工期の大幅短縮と被害軽減を可能にしています。こうした現場のスピード感と組織の対応力の一体化こそ、建設業DX時代における真の現場力と言えるでしょう。

官民連携・地域連携の可能性

建設業DX土木DXが一体であることは、行政と民間企業、さらには地域社会の連携においても欠かせません。特に地方のインフラ整備では、自治体、地場建設会社、地域住民の三者が協力し、建設業DXを推進しながら共通のデジタル基盤を整備することが急務となっています。

たとえば、中山間地域の道路改良プロジェクトでは、地元の建設会社がICT施工技術を駆使し、工事の進捗をリアルタイムで公開。自治体職員や地域住民は建設業DXを活用したクラウドシステムを通じて情報を共有し、地域の信頼関係強化に成功しています。

このように、建設業DXと土木DXの融合は、現場情報の社会的な透明性を高め、地域との共創を促進します。単なる効率化だけではなく、社会全体を巻き込んだ新しいインフラ整備の在り方こそが、今後の建設業DXの方向性なのです。

また、教育分野でも建設業DXの流れを受けて、大学や専門学校が建設会社と連携し、実践的な人材育成を進めています。学生が建設業DXの一環として施工データに触れ、仮想現場でICT施工を体験できる環境が整い、次世代の土木技術者育成に大きく貢献しています。これもまた、建設業DXと土木DXの知見が統合された教育の新たな形といえるでしょう。

まとめ

建設業DXとは、単にパソコンやソフトを導入することではありません。現場で働く人の意識や動き、組織の仕組みまで含めて、全体をアップデートする取り組みです。その中でも土木DXやICT施工は、現場の最前線に位置する実践の柱と言えます。

測量の自動化、ICT建機の導入、3Dデータによる設計と施工の連携──こうした技術は、現場の施工をよりスムーズに、安全に進める助けになっています。また、これらは作業効率だけでなく、人手不足や高齢化といった業界共通の悩みにも対応しています。

一方で、すべての現場でそれが当たり前になっているわけではありません。資金面や人材面でのハードルは依然として高く、特に中小企業では導入が進みにくい状況も見られます。だからこそ、行政や業界全体での支援や情報共有が欠かせません。

建設業が今後も必要とされるためには、土木DXと建設業DXが一体となって進む必要があります。それぞれを“特別な取り組み”として捉えるのではなく、現場の日常に溶け込ませていくこと。それが、これからの施工と社会を変えていく原動力になるはずです。

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