COLUMN
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建設業界が直面する2025年問題|人手不足と高齢化の先にある未来とは?
2025.8.20
いま日本社会で注目されている「2025年問題」。
医療や介護の分野で語られることが多いこのテーマですが、実は建設業にとっても避けては通れない大きな課題です。現場の人手不足が慢性化する中で、技能労働者の高齢化が一気に進み、経験を積んだ人材が大量に引退する時期と重なります。社会インフラを守り、地域を支えている建設業は、日本経済や私たちの暮らしの根っこに直結しています。その影響は一部の業界だけにとどまらず、地域社会や日常生活のすみずみに及ぶ可能性があります。
ここでは、2025年問題が建設業に与えるインパクトを見つめ直し、人手不足と高齢化が重なって進む現実に対して、私たちがどんな対応を考えられるのかを整理していきます。

2025年問題とは何か
日本全体で語られる「2025年問題」の正体
「2025年問題」とは、日本社会が直面する大きな転換点を示す言葉です。
団塊の世代が一斉に75歳以上の後期高齢者となり、医療・介護・年金などの社会保障制度が急速に逼迫することが懸念されています。人口構造の変化により、現役世代の負担が一段と増し、社会全体の持続可能性が揺らぐことになるのです。こうした人口動態の変化は、医療や福祉だけでなく、建設業や製造業など幅広い分野に影響を与えます。特に建設業にとっての2025年問題は、人手不足と高齢化が同時進行する現実と密接につながっている点で、社会全体の問題を象徴しています。
建設業界おける2025年問題 特有の課題
建設業界における2025年問題は、他産業とは異なる深刻さを持っています。
なぜなら、建設業ではすでに技能労働者の高齢化が進んでおり、2025年以降に大量の退職者が見込まれるからです。例えば現場を支える熟練の技能者は50代以上が大半を占め、若手の担い手は十分に育っていません。
そのため、2025年問題は「単なる労働力・人手不足」ではなく、「技術の継承断絶」を引き起こすリスクを含んでいます。医療や介護の2025年問題が社会保障の持続性を問うものであるのに対し、建設業における2025年問題はインフラ整備そのものの停滞や遅延を招く恐れがあるのです。この点で、建設業界の2025年問題はより直接的に社会生活の基盤を揺るがす影響を抱えています。
人口構造と需要のアンバランス
さらに厄介なのは、人口構造の変化と建設需要が逆行している点です。都市の再開発、防災インフラの整備、老朽化した施設の更新など、建設需要はむしろ増加傾向にあります。しかし、現場では人手不足が増加の一途をたどり、供給と需要のバランスが大きく崩れています。
これが建設業における2025年問題の核心です。人口減少社会において「仕事はあるのに人がいない」という状況は深刻であり、地域経済や生活の安全を直撃する問題へとつながります。建設業の現場では、単なる人手不足以上に、経験豊富な技能者の喪失が社会的リスクとなるのです。したがって、2025年問題を建設業界の視点からとらえることは、日本社会全体の将来を考えるうえで避けて通れない課題といえるでしょう。
建設業界の人手不足の現状
技能労働者の高齢化と若手不足
建設業の人手不足は、他産業と比べても突出しています。特に深刻なのが技能労働者の高齢化です。統計では建設業従事者の約3割以上が55歳以上を占め、今後10年以内に大量退職が予想されています。経験豊富な人材が抜けることで、現場の技術力や安全管理の水準が低下しかねません。一方で若手の入職者は減少傾向にあり、全体の年齢構成は急速にいびつになっています。
新卒者や転職希望者が建設業を敬遠する背景には、「きつい・危険」といった従来のイメージや、他業種と比較した待遇面の差があると指摘されています。この構造的なギャップこそが、人手不足の根本的な要因です。
女性・外国人材の参入状況と課題
もう一つの特徴は、多様な人材の受け入れが十分に進んでいないことです。
女性の建設業従事者は徐々に増えているものの、全体に占める割合は依然として低い水準にとどまっています。また、外国人技能実習制度や特定技能制度を通じた人材確保も進められていますが、言語や文化の違い、安全教育の徹底など、現場での受け入れには課題が多く残されています。
建設業が今後も社会基盤を支えるためには、女性や外国人材を単なる補助的戦力とするのではなく、長期的に活躍できる環境を整えることが不可欠です。現場を支える人材の多様化が進まなければ、2025年問題がもたらす人手不足の解消にはつながりません。
なぜ人手不足が深刻化しているのか
働き方と労働環境の問題
建設業の人手不足が深刻化している背景には、働き方や労働環境の問題があります。従来の建設業は長時間労働が常態化し、休日も十分に確保できない現場が少なくありませんでした。加えて、気温が高い夏場や厳しい寒さの冬場にも屋外での作業を伴うため、体力的な負担が大きいことも事実です。
こうした環境は若い世代の就職希望者を遠ざける要因となり、「きつい業界」というイメージが固定化されてきました。働き方改革が社会全体で進む中、労働環境の改善が遅れたことが、建設業の人手不足に拍車をかけています。
他産業との賃金・待遇格差
人手不足が加速しているもう一つの理由は、他産業との賃金や待遇の格差です。
特にITや製造業などと比べた場合、建設業の給与水準は同等かそれ以下でありながら、肉体的・精神的な負担が大きいと感じられています。また、福利厚生やキャリア形成の選択肢が限られている点も若年層にとってはマイナス材料となっています。
建設業は社会に不可欠な産業であるにもかかわらず、待遇面で魅力を示せない状況が続いた結果、若い人材が流入せず、人手不足が慢性化しているのです。
長期的な教育・人材育成不足
さらに、長期的な人材育成の不足も大きな要因です。技能労働者の育成には時間がかかりますが、教育制度や研修体制が十分に整ってこなかったため、技術の継承が難しくなっています。
特に地方では、教育機関や訓練校の数が限られており、若者が建設業のスキルを身につける機会が不足しています。その結果、ベテランが現場を離れる一方で、新しい担い手が育たないという悪循環が起きています。このままでは、2025年問題による人口減少と相まって、建設業の人手不足はさらに深刻化することが懸念されます。
2025年以降に起こりうる影響
インフラ整備・維持管理への影響
2025年問題が本格化すると、建設業界におけるインフラ整備や維持管理の現場に深刻な影響が及ぶと予想されます。とりわけ、道路や橋梁、上下水道といった社会資本の多くは高度経済成長期に整備されたものが多く、更新の時期を迎えています。
しかし、その時期がちょうど2025年問題と重なることで、必要な工事を担う人手不足が顕在化します。工事量は増えているのに、現場に立つ技術者や技能労働者は減っていく。結果として、補修や更新が後手に回り、インフラの老朽化が加速するリスクが高まるのです。特に地方では、予算や人材が限られるため、2025年問題による影響が都市部以上に強く現れる可能性があります。
経済・地域社会に及ぶリスク
さらに、2025年問題は建設業だけの問題にとどまりません。人手不足が慢性化すれば、工期の長期化やコストの上昇につながり、公共事業や民間プロジェクトの進行に支障が出ます。これにより、経済活動全体の停滞が起きるだけでなく、災害対応や防災インフラの整備が遅れることで地域住民の生活に直接的なリスクをもたらすのです。
建設業は地域経済の基盤であり、その停滞は地域活性化や雇用にも悪影響を及ぼします。2025年問題がもたらす波及効果は、社会全体の安心・安全を揺るがす構造的な課題といえるでしょう。したがって、建設業界が直面する2025年問題は、単に人材を確保すれば解決する問題ではなく、社会全体の危機管理の視点から捉えなければならないのです。
人手不足解消に向けた取り組み
働き方改革と労務環境改善
建設業の人手不足を解消するためには、まず「働き方」の見直しが不可欠です。これまでの業界は、長時間労働や休日の少なさが常態化し、若い世代に敬遠されてきました。
2025年問題が迫るなか、この古い労働環境を変えなければ、さらに人手不足が進行することは明らかです。そこで、週休二日制の導入、現場ごとのシフト制導入、残業時間の削減などが広がり始めています。
また、安全管理や健康管理を重視する流れも強まり、休暇を取りやすい職場づくりが求められています。こうした改善が実現すれば、建設業は「3Kの職場」という従来の負のイメージを払拭し、働き方の多様性を持つ新しい産業へ変わっていくでしょう。2025年問題を乗り越えるには、人材確保の前提として、まず業界全体での働き方改革を実現することが欠かせません。
ICT・DX導入による効率化
もう一つの有効なアプローチが、ICTやDXの積極的な導入です。ドローン測量や3Dモデルを活用したBIM/CIM、建設ロボットによる自動化施工などは、労働力不足を補う大きな武器となります。2025年問題が顕在化すると、人材の減少スピードがさらに加速すると予測されているため、技術による効率化は避けて通れません。
特に、ICT施工は作業時間を短縮するだけでなく、重労働を軽減し、現場の安全性も高めます。これにより、建設業の働き方そのものが変わり、若者が「デジタルを駆使できる先進的な産業」として興味を持つ可能性が広がります。つまり、ICTやDXは単なる効率化ツールではなく、2025年問題に直面する業界を持続可能にするための基盤そのものといえるでしょう。
人材の多様化戦略(女性・若手・外国人)
さらに、人材を多様化することも欠かせません。女性が働きやすい環境を整えるために、現場に更衣室や休憩スペースを設置する企業も増えています。外国人労働者についても、技能実習制度や特定技能制度を活用し、言語や文化の違いを超えた教育・研修を実施する必要があります。
また、地域の高校や専門学校と連携して若者を育成する取り組みも進んでいます。こうした多様化戦略は、単なる人材不足対策にとどまらず、建設業の価値観そのものを広げていきます。2025年問題を契機に、多様な人材を受け入れる仕組みを構築できれば、業界はより柔軟で革新的な発展を遂げるでしょう。
2025年問題を好機に変える視点
最後に大切なのは、2025年問題を単なる「危機」と見なすのではなく、「変革の契機」としてとらえる姿勢です。人手不足は確かに深刻ですが、その背後には社会構造の変化や価値観の移り変わりといった、大きな流れがあることも忘れてはいけません。
逆に言えば、この問題をきっかけに建設業が大胆な転換を進めれば、社会に選ばれる産業へと進化できるのです。2025年問題を乗り越えるための努力は、未来の建設業を形づくる重要なプロセスであり、単なる人材確保にとどまらず、働き方改革、技術革新、人材育成の三位一体で進める必要があります。
建設業界の未来展望
技術革新とスマート建設の可能性
建設業界は、2025年問題によって大きな岐路に立たされています。
人手不足と高齢化が深刻化するなか、業界が生き残るためには「技術革新」が不可欠です。すでに導入が進んでいるICT施工やBIM/CIM、ドローンによる測量、建設ロボットなどの技術は、従来の作業を飛躍的に効率化しています。これらは単なる省人化のツールにとどまらず、施工の品質や安全性を高め、持続可能な建設業の基盤を築き上げる役割を果たしています。
特に、デジタル技術を使いこなせる若い世代が参入すれば、これまでにない新しい現場の姿が実現するでしょう。2025年問題を逆手に取り、「人が足りないからこそ技術で補う」という発想が、建設業界を未来へと押し上げるカギになります。
社会に選ばれる産業への転換
一方で、技術革新だけでは十分ではありません。2025年問題は、建設業界が社会からどのように見られているかという「イメージの課題」も突きつけています。これまで建設業は「3K(きつい・汚い・危険)」の象徴とされ、若者や女性から敬遠されがちでした。
しかし、社会が持続可能性を重視する時代において、建設業の役割はますます重要になります。災害復旧やインフラ整備、都市の再開発に欠かせない建設業が「人々の暮らしを守る産業」として改めて認識されれば、若い世代の関心も高まります。2025年問題はその意識変化を加速させる契機となり得るのです。今後は、働く人々の誇りややりがいを社会に発信し、魅力ある職場文化を築くことで「選ばれる産業」への転換が進んでいくでしょう。
未来への持続可能なビジョン
最終的に、2025年問題は一過性の危機ではなく、建設業界が持続可能な姿へと変わるための「試金石」となります。人口減少社会では、今までと同じやり方では業界は立ち行きません。しかし、働き方改革やDX推進、多様な人材の参入を組み合わせれば、むしろ「少ない人で高品質な成果を出せる産業」へと変貌することが可能です。
その過程で問われるのは、「建設業が社会にどう価値を提供するか」という根本的な姿勢です。2025年問題は厳しい現実を突きつけると同時に、未来に向けたビジョンを描く好機でもあります。業界全体が挑戦を恐れず変革に踏み出せるかどうかが、次の世代の建設業を決定づけるのです。
まとめ
2025年問題は、社会全体に広がる人口構造の変化が背景にありますが、とりわけ建設業界においては人手不足と高齢化が同時進行することで深刻な課題となっています。これまで社会インフラを支えてきた技能労働者が大量に引退する一方で、若手の入職者は思うように増えていません。こうした構造的な問題を放置すれば、道路や橋、上下水道などの維持管理が滞り、経済や地域社会に大きな影響を及ぼす可能性があります。
その一方で、建設業界には大きな変革のチャンスも訪れています。ICTやDXの活用による効率化、自動化技術による安全性の向上、多様な人材の参入促進といった取り組みは、人手不足の克服だけでなく産業全体の魅力を高める契機になります。また、働き方改革によって「長時間労働が当たり前」という旧来の慣習を改めることも、若い世代や女性に選ばれる産業へと変えていく鍵となるでしょう。
本コラムで見てきたように、2025年問題は建設業にとって大きな試練であると同時に、未来への転換点でもあります。社会に必要とされ続けるためには、人手不足を補うだけでなく、技術革新と働き方の改善を通じて「持続可能な建設業」へと進化することが欠かせません。これからの10年をどう乗り越えるかが、日本のインフラと暮らしの質を大きく左右するといえるでしょう。
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