COLUMN
#土木の未来を考える

3Kの時代は終わる?土木業界の課題・建設業の人手不足と働き方改革の現在地
2025.8.20
目次
かつて建設業や土木業界といえば「3K(きつい・汚い・危険)」という言葉が代名詞のように使われ、多くの人が敬遠する職場とされてきました。しかし今、社会を支えるインフラ整備に欠かせない存在として、建設業は改めて注目されています。ところが同時に、人手不足が深刻化し、現場の働き方に大きな影響を及ぼしています。
実際、若手がなかなか入職せず、ベテランが引退していく状況の中で「人手不足はこのまま解消できるのか」という不安の声が現場からも聞こえてきます。こうした背景のなか、長時間労働の是正や週休二日制の導入、ICTを活用した効率化など、働き方を見直す動きが各地で始まっています。
とはいえ、人出不足に対する対策は理想どおりに進んでいるわけではありません。中小企業を中心に、建設業ならではの発注構造や現場事情が改革を難しくしているのも現実です。
本コラムでは、土木業界の課題や建設業全体の人手不足の要因を整理しながら、働き方改革の現在地を多角的に考えていきます。

土木業界と建設業の社会的役割とイメージの変遷
国の基盤をつくる建設業の役割
建設業は、道路、橋、上下水道、港湾といったインフラを整備し、社会の根幹を支える産業です。特に土木業界は、災害時の復旧や生活基盤の維持に直結するため、人々の安全と暮らしを守る使命を担ってきました。建設業がなければ物流も止まり、都市の発展も不可能であることから、国の経済や社会を下支えする最前線の存在と言えます。
しかしその一方で、建設業は華やかな業界ではなく、日々の成果が目に見えにくい分、社会的評価が十分に追いつかない場面もありました。道路が整備され、水道が使えることは当たり前と捉えられがちで、こうした「当たり前」を作り出す建設業の価値は、長らく世間に正しく理解されにくかったのです。
社会を支える土木業界の歴史的役割
戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、土木業界は膨大なインフラ需要に応えるべく急速に発展しました。住宅地の拡大に伴う上下水道の整備や、新幹線や高速道路といった大型プロジェクトは、日本の発展を象徴するものでした。こうした工事の多くは、厳しい工期や膨大な作業量を伴い、昼夜を問わない稼働で進められたのも事実です。
社会全体の豊かさを追求する過程で、建設業に携わる人々は、時に過酷な環境の中で汗を流し、命の安全を守りながら任務を遂行してきました。土木業界は「国をつくる力」として称賛される一方で、その裏には多大な負担が存在していたことも忘れてはなりません。
市民生活とイメージの変化
都市が整い、私たちが快適な生活を送れるのは建設業の貢献によるものですが、その努力や役割はしばしば十分に伝わってきませんでした。現代に至るまで、建設業のイメージは「生活を守る基盤づくり」と同時に、「きつい仕事」「体力勝負」といった側面を抱えてきたのです。
特に土木業界では、汗まみれで働く現場の姿が象徴的に語られることが多く、世間には「厳しい仕事」という印象が強く残りました。こうしたイメージは後に「3K」という言葉へと結びつき、第2章で触れる固定観念の形成へとつながっていきます。
なぜ「3K」が語られてきたのか
高度経済成長期に根付いたイメージ
「3K(きつい・汚い・危険)」という言葉が土木業界や建設業の象徴のように使われるようになった背景には、日本の高度経済成長期の労働環境があります。
1960年代から続いたインフラ整備ラッシュでは、道路や橋、上下水道といった社会基盤を一気に整えるために、昼夜を問わない突貫工事が多く実施されました。
その結果、安全設備は今のように整っておらず、事故や労災のリスクは高く、建設業に携わる人の働き方は過酷でした。休暇も取りにくく、長時間労働が常態化し、建設業は「体力勝負で危険が多い」というイメージが定着したのです。土木業界の現場は、社会を支える使命を担っていたにもかかわらず、働く人にとって大きな負担となり、これが「3K」という言葉を生み出した土壌でした。
メディアと世間がつくった固定観念
こうした現場の状況に追い打ちをかけたのが、マスメディアによる報道です。
テレビや新聞では、建設業の明るい側面よりも、事故や不祥事といったリスクや問題がクローズアップされやすく、「危険な現場」という印象ばかりが社会に残りました。
例えば大規模災害時の復旧作業で昼夜を問わず働く土木業界の姿は、本来なら社会貢献の象徴とされるべきものです。しかし現実には、「災害時も過酷な環境で作業を強いられる」という課題の部分が強調され、若い世代にとって建設業は「大変そう」「将来性がない」と思われやすい環境が長く続きました。
その結果、他業界に比べて人手不足が深刻化し、採用活動においても不利な状況が続いたのです。
現代に残る“過去の影”
もちろん、現在の建設業や土木業界は大きく変わっています。
安全基準は国際的にも高水準になり、ヘルメットや保護具の着用義務化、ICT技術を使った施工管理の普及などにより、労働環境は格段に改善されています。また、働き方改革の流れを受けて、労働時間の短縮や週休二日制の導入が進み、「建設業は休めない」という過去の働き方への常識も徐々に変わりつつあります。
とはいえ、一度根付いた「3K」という負のイメージは完全には消えておらず、土木業界にとって依然として大きな課題です。人手不足が進行する現在、この固定観念をどう払拭するかは避けて通れないテーマであり、企業や行政が協力して、建設業の新しい働き方を積極的に発信することが求められています。実際に若手の就職活動でも、「建設業はきつい」といった過去の影響で敬遠される傾向が残っており、これを乗り越えなければ将来的な担い手不足はさらに深刻化しかねません。
建設業・土木業界に迫る人手不足という現実
深刻化する人手・担い手不足
近年、建設業界全体で最も大きな課題とされているのが人手不足です。国土交通省の統計によると、建設業の就業者数はピーク時から減少傾向にあり、特に土木業界では若手の参入が伸び悩んでいます。その背景には、少子高齢化が進む日本社会全体の構造的な問題があり、技能労働者の高齢化も顕著です。
建設業はインフラ整備や災害復旧など社会の根幹を支える重要な役割を果たしていますが、その人手・担い手が不足しているため、現場の生産性維持や安全確保が大きな課題となっています。とくに地方の土木業界では、採用が難しく、工事の受注量に比べて人員が追い付かないケースも少なくありません。
人手不足が引き起こす連鎖的な課題
人手不足は単に「人が足りない」という問題にとどまりません。現場の作業員が減ることで、一人あたりの労働負担が増し、働き方の改善どころか逆に長時間労働に戻ってしまうリスクもあります。
また、ベテラン作業員が引退する一方で、若手人材の定着率が低いため、技術継承が進みにくいという課題も顕著です。建設業に必要な技能は一朝一夕に身に付くものではなく、経験の積み重ねが重要です。人手不足が続けば、インフラの品質や安全性に影響を及ぼしかねません。さらに、工期遅延やコスト増加といった問題も発生し、発注者や地域社会への信頼低下につながる恐れがあります。こうした悪循環を断ち切るためにも、建設業界全体での抜本的な取り組みが求められています。
解決に向けた取り組みと展望
では、土木業界や建設業はこの課題にどう対応しているのでしょうか。
近年では、ICT施工やドローン測量、BIM/CIMの導入などによる省人化が進んでおり、人手不足を補うための技術革新が加速しています。さらに、外国人技能実習制度や特定技能制度を活用し、多様な人材を現場に迎え入れる流れも強まっています。
働き方改革の一環として、週休二日制や残業時間の抑制に取り組む企業も増え、建設業の「働き方」が変化しつつあります。もちろん、これらの施策だけで人手不足が一気に解消されるわけではありませんが、若手人材にとって魅力的な働き方を整備し、土木業界の社会的意義を発信し続けることが、持続可能な人材確保の鍵となるでしょう。課題は山積していますが、業界全体が知恵を出し合い、新しい働き方を模索する動きが確実に広がっているのです。
改革が進む企業と遅れる企業の差
大手ゼネコンと中小企業の働き方改革への温度差
建設業における働き方改革は、大手ゼネコンと中小企業で大きな温度差があります。
大手では資金力や人員に余裕があり、ICTやDXの導入を積極的に進め、働き方の改善に取り組んでいます。
一方、中小の土木業界では、人手不足が深刻で「休みたくても休めない」という現場が少なくありません。たとえば週休二日制を導入しようとしても、代わりの人員が確保できず、結局は現場の責任者が長時間労働を続けざるを得ないといった状況があるのです。
制度があっても、それを実現できるかどうかは企業規模や経営体力に左右されています。
働き方改革を後押しする企業文化とリーダーシップ
改革を進められる企業には共通点があります。それは経営者や現場リーダーが「人を大切にする」という姿勢を明確に示していることです。建設業は工期や予算の制約が厳しい業界ですが、長期的に人材を確保するには「人手不足を解消するために何ができるか」を真剣に考える必要があります。
ある企業では、現場の声を経営層に直接届ける仕組みを整えたことで、休日確保や労働環境の改善が一気に進みました。働き方の改善は、単なる制度導入ではなく、企業文化の変化が伴って初めて実現するのです。
働き方改革に乗り遅れる企業のリスク
一方で、働き方改革に消極的な企業は人材確保で苦戦しています。「建設業はきついから若者が集まらない」と言われる状況の中で、改革を進められない企業はさらに人手不足に陥り、受注機会を逃すリスクも高まります。
近年では発注者側も「働き方に配慮した企業」を評価する動きが強まり、改革を進めていない会社は競争力を失いつつあります。人手不足を放置したままでは、企業の存続すら危うくなる可能性があるのです。
現場から見えるリアルな声と課題
「3K」イメージと現実のギャップ
土木業界と建設業の現場では、依然として「きつい・危険・汚い」といった3Kのイメージが根強く残っています。
しかし、実際に現場で働く人々の声を拾うと、課題は多いものの、働き方が少しずつ改善されていることも伝わってきます。週休二日制の導入や安全対策の強化、デジタル機器を用いた作業効率化などにより、従来の厳しい労働環境が和らいできたと語る若手もいます。それでも「人手不足によって作業負担が増える」「急な残業が発生する」といった声が絶えず、働き方の見直しが継続的に求められています。
技能労働者の誇りとやりがい
一方で、課題の多い環境にもかかわらず、建設業に従事する人々が口を揃えて語るのは「自分の手で形を残せる誇り」です。
道路や橋梁、上下水道といった社会インフラは、人々の生活に欠かせない存在であり、その整備に携わることは強いモチベーションにつながっています。土木業界は、現場での努力がそのまま地域社会の利便性や安全に直結する点で大きな魅力を持っています。ただし、このやりがいを次世代につなげていくためには、持続可能な働き方を実現する必要があります。建設業が社会的使命を果たし続けるためには、「働き方改革」と「人手不足対策」を両輪で進めていくことが欠かせません。
現場の声から見える今後の方向性
現場のリアルな声を踏まえると、土木業界や建設業に残された課題は明確です。
第一に、人手不足を解消しつつ、長期的に人材を定着させる環境づくりが必要です。待遇改善、キャリア形成支援、女性や外国人材の積極的な活用など、多様な働き方を認める仕組みが急務です。
第二に、業務効率化を推進するデジタル技術の導入を加速し、現場負担を軽減することが不可欠です。そして第三に、業界全体が社会に向けて情報を発信し、「課題の多い業界」という印象から「成長性と安定性のある産業」へと意識を変えていく努力が求められます。こうした流れを実現できれば、建設業や土木業界に新しい担い手が集まり、持続可能な社会基盤整備へとつながっていくはずです。
これからの土木業界と働き方の展望
建設業に求められる働き方の再定義
これからの建設業では、「従来のやり方を前提とした働き方」をそのまま続けるのは難しいでしょう。人手不足が常態化するなかで、いかに少ない人数で効率よく、安全に施工を進めるかが課題です。
週休二日制や残業削減といった表面的な制度改革だけでなく、「働く人が誇りを持てる仕組み」を再定義することが不可欠です。たとえば、現場と設計をデジタルでつなげて意思疎通を円滑にする仕組みや、資格取得をキャリアの成長に直結させる仕組みが整えば、若手が安心して働き続けられる環境が生まれます。
多様な人材が活躍できる土木業界へ
土木業界の人手不足を解決するには、これまで十分に取り込めなかった人材の力を活かす視点も大切です。女性や外国人材、あるいは定年後の再雇用といった、多様な人々がそれぞれの強みを活かせる仕組みを作ることが求められています。実際、柔軟な働き方を認める企業では、新しい人材が定着しやすい傾向があります。
人手不足は必ずしも「人がいない」ことだけが原因ではなく、「働ける環境が整っていない」ことも大きな要因なのです。
未来の建設業を形づくる視点
建設業の未来を考えるとき、「課題」だけを語るのではなく、「チャンス」としての側面にも目を向ける必要があります。人手不足を逆手にとって、省力化や自動化を加速させれば、業界全体の生産性は飛躍的に高まるかもしれません。
また、働き方を柔軟に見直すことで、他業種から転職してくる人材を呼び込む可能性も広がります。社会インフラを守る建設業は、人々の生活に直結する重要な役割を担っており、その価値を正しく伝える努力も必要です。土木業界が未来に向けてどう変わるかは、私たち一人ひとりの「働き方」にかかっていると言っても過言ではありません。
まとめ
かつて「3K」と言われてきた土木業界ですが、今はそのイメージを乗り越えようとする大きな転換期にあります。建設業全体で深刻な人手不足に直面するなか、単に人を増やすだけではなく、働き方そのものを見直す必要が高まっています。週休二日制の導入や残業削減、デジタル技術を取り入れた省力化は、そのための手段のひとつです。しかし、それだけでは不十分であり、「建設業の魅力をどう伝え、どう人材を定着させるか」という根本的な課題に答えを出さなければなりません。
実際に現場で働く人々は、「厳しい環境だからこそ誇りを感じられる」「社会を支えている実感がある」と口をそろえます。そのリアルな声をどう若手に届けるかも重要です。人手不足はマイナス面ばかりを強調されがちですが、逆に言えば業界全体の働き方を改革し、多様な人材を受け入れるきっかけにもなり得ます。
これからの建設業は、効率化とともに「人が安心して働ける環境づくり」にどれだけ取り組めるかが鍵となります。土木業界の人手不足という課題を真正面から捉え、柔軟で持続可能な働き方を築くことができれば、「3K」の時代は確かに終わり、新しい建設業の姿が社会に根付いていくでしょう。
SSFホールディングスの能力開発校ADSでは、次世代の土木技術者を育成します。現場で活躍できる人材の輩出を通じて、業界全体の発展に貢献いたします。 職場見学も受け付けておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
