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#土木インフラの仕組み

雨水排水のしくみとは?道路が冠水しないための対策と土木技術

雨水排水のしくみとは?道路が冠水しないための対策と土木技術

近年、ゲリラ豪雨線状降水帯といった激しい降雨によって、道路があっという間に冠水する被害が全国各地で相次いでいます。こうした状況に直面すると、私たちは初めて「排水の仕組みが十分でなかったのでは?」と疑問を抱きます。しかし実は、日常の中では目に見えない部分で、雨水を処理するための緻密なシステム土木技術が機能しているのです。

このような事態を前に、私たちは何ができるのでしょうか。ただ被害を受けるだけでなく、少しでもその背景やしくみを理解することで、今後の行動や意識に変化が生まれるかもしれません。たとえばなぜこの道路だけ何度も冠水するのか?」「排水はどこへ流れているのか?といった素朴な疑問を持つことから、インフラへの関心が芽生えます。

本コラムでは、道路の下で行われている排水の基本構造から、冠水の主な原因、そしてその対策として注目される最新の技術地域の取り組みまで、幅広く解説していきます。見えないインフラの働きを知ることで、災害に強いまちづくりのヒントが見えてくるはずです。

能力開発校

雨水排水の基本構造とは

道路の下には“見えないインフラ”がある

大雨が降るたびに一時的に冠水する道路。多くの人が「インフラが弱いから」と一括りにしてしまいがちですが、実際には見えない場所で複雑な排水システムが働いています。
なぜこの場所だけ何度も冠水するのか?」そんな素朴な疑問が、雨水インフラの奥深さを知るきっかけになるかもしれません。
私たちが普段歩いたり車で通行したりする道路の下には、実に多くのインフラ設備が埋設されています。その中でも特に重要なのが雨水排水のための施設です。たとえば、道路の縁に設けられた「側溝」や、雨水を一時的にためる「集水桝」、地下へと水を導く「排水マス」などがその代表です。

これらの設備は、雨水を効率的に集め、地中に送り込むことで道路冠水しないように機能しています。特に都市部では、アスファルトやコンクリートに覆われた地表面が多く、水が地面にしみ込むことが難しいため、排水インフラの重要性が高まっています。道路の整備と同時に、これらの排水設備も慎重に計画・設置されなければなりません。
また、見落とされがちですが、これらの設備が機能するには、定期的な清掃や点検といった維持管理が欠かせません。落ち葉やゴミが排水口をふさいでしまえば、本来の排水機能が失われ、道路冠水という被害を招くリスクが一気に高まってしまうのです

重力と勾配を利用した排水の仕組み

雨水排水の基本は、シンプルながらも巧妙な「重力」の利用です。道路の表面には、人の目にはわかりにくいわずかな「勾配(こうばい)」が設けられており、これによって雨水が自然と側溝排水口に流れ込む仕組みとなっています。つまり、水が高い場所から低い場所へ流れる性質をうまく活用しているのです
側溝から集水桝、そして地下の管路へと水が流れ込んだ後、排水はさらに下水道へと送られます。地域によっては、雨水と汚水を別々に処理する「分流式下水道」や、同じ管で流す「合流式下水道」が採用されています。いずれの場合も、雨水をスムーズに排出できるよう、適切な管の径や流速が計算されています

このように、目に見えない道路の下には、複数の設備と計算された構造が連携して機能しているのです。しかし、近年のような集中豪雨が起これば、設計時の想定を超える量の雨水が発生し、排水能力が追いつかずに冠水するケースが増えています。そうした事態に備えるためにも、さらなる対策技術革新が求められています。

なぜ道路が冠水してしまうのか

排水能力を超える集中豪雨の脅威

年々増加している局地的な大雨、いわゆるゲリラ豪雨や線状降水帯の発生により、道路冠水が日常的な問題となりつつあります。従来の雨水排水システムは、ある一定の降雨量を前提に設計されています。しかし、近年の極端な気象現象では、その排水能力を超える雨水が短時間に集中して降るため、道路の冠水が避けられない事例が多発しています

このような状況では、側溝集水桝だけで雨水を処理しきれず、道路面に一時的に水があふれ出してしまいます。特に都市部では舗装面が多いため、雨水が地面にしみ込む余地が少なく、ほとんどの雨水が排水施設に流れ込む構造になっており、集中豪雨に弱いのが現実です

また、局地的な低地では、周辺から集まった雨水が一点に集中してしまい、排水が間に合わずに冠水するというケースもあります。このような状況に備えるためには、従来の設計基準を見直し、気候変動に対応した柔軟な対策が必要です。

排水設備の老朽化とメンテナンスの課題

もうひとつ見逃せないのが、排水設備の老朽化による機能不全です。多くの都市インフラは高度経済成長期に整備されたものが多く、築数十年を経た施設では、コンクリートの劣化や内部の詰まり、金属部の腐食などが進行しています。これにより、設計どおりの排水性能を発揮できないことが、道路冠水のリスクをさらに高めています
特に集水桝側溝などは、雨水とともに土砂や落ち葉、ごみが流れ込みやすく、清掃や点検を怠るとすぐに詰まりの原因となります。見た目には異常がなくても、内部に滞留物があるだけで排水能力は大きく低下してしまいます。

このようなリスクに対しては、定期的な清掃・補修作業を計画的に行うことが重要です。さらに、施設の老朽度や流下状況を可視化できるセンサー技術や、定点カメラなどを用いたモニタリング有効な対策となります。

また、限られた予算の中で効率的な維持管理を行うためには、土木技術者や自治体が連携し、優先順位をつけた更新計画や補修工事を進めていく必要があります。インフラの見えない劣化を見逃さず、日常の安全を守るには、地道な取り組みが欠かせません。

道路冠水を防ぐための主な対策

ハード面での対策—インフラ整備の工夫

道路冠水を防ぐためには、まず“受け止める・流す・ためる”という基本原則に基づいたインフラ整備が欠かせません。都市部では特に、地表に降った雨水がすぐに地中にしみ込まないため、効率的な排水経路の整備が求められます。

そのひとつが「雨水貯留施設」の設置です。これは一時的に大量の雨水をためておく地下のタンクやトンネルで、排水処理場が処理しきれない場合でも、水を一時保管し、時間をかけてゆっくり流すことで下流への負担を軽減します。とくに都市化が進んだ地域では、こうした施設の整備が冠水対策の柱となっています。
また、「透水性舗装」や「浸透桝」の導入も重要です。透水性舗装は、道路や歩道に使う舗装材に小さな隙間を持たせることで、雨水を直接地中に浸透させる仕組みです。これにより、排水設備への負荷を軽減し、道路冠水の発生リスクを抑えることができます。

さらに、排水経路の設計においては、合流式・分流式といった下水道の方式が関わってきます。分流式では、雨水汚水を分けて処理するため、大雨時にも比較的排水能力が維持されやすいとされています。こうした土木的アプローチは、長期的な視点で見ると非常に効果的な対策となります。

ソフト面での対策—運用と管理の工夫

ハードだけでなく、日常的な運用・管理も冠水を防ぐうえで欠かせません。たとえば、側溝や排水口に落ち葉やごみがたまると、せっかくの排水経路がふさがれてしまい、道路が簡単に冠水する恐れがあります。そこで重要になるのが、定期的な清掃活動や監視体制の整備です。

一部の自治体では、雨量や排水能力をリアルタイムで監視するシステムを導入し、雨水の流量に応じて排水ポンプやゲートの開閉を自動で行う技術が広がり始めています。これにより、人的判断に頼らず迅速な対策を講じることが可能になります。
さらに、ハザードマップの活用や地域住民への情報提供も、道路冠水に備えるための重要な手段です。どのエリアが浸水しやすいかを事前に共有しておくことで、住民の意識も高まり、災害発生時の混乱を最小限に抑えることができます。

日常的なメンテナンスと先進技術、そして住民との連携。この三本柱が揃って初めて、道路における雨水排水の安全性は確保されるのです。インフラは作って終わりではなく、使い続ける中で支え続ける仕組みが求められています。道路が冠水するたび、排水の重要性が改めて実感される今こそ、土木技術の役割に再注目すべき時代といえるでしょう。

進化する雨水排水技術と土木の挑戦

グリーンインフラの導入で自然と共存する排水

従来のコンクリート主体の排水インフラに代わり、近年では「グリーンインフラ(Green Infrastructure)」と呼ばれる自然を活かした雨水処理の取り組みが広がりつつあります。これは、雨水をすぐに流すのではなく、一時的にためたり、ゆっくりと地中にしみ込ませたりすることで、道路の冠水を未然に防ぐ方法です

代表的な例として「雨庭(あめにわ)」があります。これは植栽や土壌を利用して、住宅や施設の敷地内で雨水を受け入れるしくみで、都市の排水負荷を軽減しながら緑化にも貢献します。また、都市の歩道や広場に「透水性舗装」や「植栽帯」を設けることで、雨水の自然な浸透を促すとともに、ヒートアイランド現象の緩和にも寄与します。
これらの対策は、大規模な施設整備を伴わないぶん、費用を抑えながら持続的に運用できるという利点もあります。自然の力を利用した雨水排水は、これからの都市において重要な役割を担っていくでしょう。

ICT・センシングを活用したリアルタイム管理

一方で、デジタル技術を駆使した排水管理の高度化も進んでいます。ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)を活用することで、道路や排水管の状況をリアルタイムで把握し、異常の兆候を早期に検知することが可能になってきました。
たとえば、道路下に設置されたセンサーが雨水の流量や水位を常時モニタリングし、一定のしきい値を超えたときに自動的にアラートを発するシステムがあります。これにより、豪雨による冠水リスクを事前に察知し、早めの対策を講じることができます

また、排水ポンプやゲートの遠隔操作も進化しており、中央の管制室から複数地点の排水状況を一括管理できるようになっています。大雨が予測される前に、あらかじめ雨水を流しやすい状態に整える“事前排水”も一部の自治体で導入されています

これらの技術は、従来の人力による巡回や点検に頼る管理から脱却し、効率的かつ正確な冠水対策を実現しています。今後は、こうした先端技術とグリーンインフラの両立が、持続可能な都市の鍵を握るといえるでしょう

地域の防災と雨水排水対策の関係

自治体・住民・専門家が連携する体制づくり

雨水排水は、単に道路や下水道の整備だけで完結するものではありません。気候変動がもたらす豪雨リスクが高まるなか、地域全体での防災力強化が求められています。特に、道路冠水が頻発するエリアでは、自治体・住民・専門家の三者が連携し、日常から意識を高めていく体制づくりが重要です

まず、自治体にはハード・ソフト両面からの冠水対策が求められます。排水設備の点検・補修や貯留施設の整備に加え、ハザードマップの更新や防災情報の周知徹底など、地域住民への情報提供体制の充実も欠かせません。どの道路が浸水しやすいのか、避難経路はどう確保されているのかといった情報を明確に共有しておくことが、平時からの備えとなります。
一方で、住民の側にも意識改革が求められます。たとえば、排水口の上に物を置かない、ごみを適切に処理する、地域清掃に参加するなど、日常の小さな行動が雨水排水の機能維持につながるのです。また、冠水が発生した際には慌てず行動できるよう、事前に家族や近隣と避難ルートを確認しておくことも大切です

専門家や土木技術者の役割も大きく、気象データや地形解析に基づいたリスク評価計画的なインフラ設計、災害後の復旧支援など、さまざまな場面で知見が求められます。つまり、雨水と向き合う地域づくりには、多様な主体の連携が不可欠なのです。

また、冠水リスクが高まる背景には、地球温暖化や都市構造の変化といった複合的な要因もあります。単にインフラ整備を強化するだけでなく、雨水の流れをコントロールしやすい環境づくり、地域の意識啓発、柔軟な排水計画といった、総合的な取り組みが求められているのです。道路の安全性は、インフラと人の力で守られています。

これからの雨水排水は「備える」から「適応する」へ

従来の雨水排水は、「いかに水を早く流すか」に重点が置かれてきました。しかし、極端な気象が常態化するいま、すべての水を流しきることは現実的ではありません。そこで近年注目されているのが、水と共に生きる”という考え方です。これは、被害をゼロにするのではなく、被害を最小限に抑えながら社会活動を維持する「適応型」の発想です。

たとえば、低地ではあえて道路を一時的に水たまりとして使い、住宅地や重要施設への浸水を防ぐという対策があります。また、雨が降ることを前提にした街づくりとして、雨水貯留公園や調整池などを都市計画に組み込む例も見られます。
こうした取り組みは、「流す」から「受け止める」へのパラダイムシフトとも言えるでしょう。排水設備の性能だけに頼るのではなく、まち全体で雨水をどうコントロールするかという視点が求められています
その鍵を握るのが、やはり土木技術です。ハードとソフト、自然とテクノロジー、行政と住民をつなぐ存在として、これからの雨水排水の未来を切り拓く役割が期待されています。

まとめ

都市に暮らす私たちにとって、道路が安全で通行可能であることは日常の一部です。しかし、ひとたび集中豪雨が発生すれば、その道路冠水し、日常が一瞬で混乱に変わることもあります。こうしたリスクを減らすためには、雨水排水のしくみを理解し、身の回りのインフラがどのように機能しているかを知ることが出発点です。

今回ご紹介したように、排水の基本構造から始まり、冠水の原因、そしてハード・ソフトの両面にわたる対策まで、多角的な視点が必要となります。また、最新の土木技術やICTの導入、そして地域社会の連携など、多様なアプローチが進化し続けているのも現代の特徴です。
これからの時代においては、「流す」ための排水から、「受け止めながら共存する」ための仕組みづくりへと移行していくことが求められます。その過程で、住民一人ひとりの意識や行動が、地域の安全性を高める大きな力となるでしょう。

目に見えないインフラに目を向けることは、災害に強いまちを育てる第一歩です。雨水排水というテーマを他人事ではなく“自分ごと”として考えることが、未来の安心を形づくる鍵となります。
最後に、身近な道路で冠水を目にしたとき、ただ困るだけで終わるのではなく、「この水はどこへ流れるのだろう?」と一歩踏み込んで考えてみてください。その視点の変化が、やがて地域防災力の向上につながっていきます。見えないけれど、確かに働いている排水の技術と努力を、私たち一人ひとりが理解すること。それが安全な都市の礎となるのです

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