COLUMN
#土木のキホン

ガス・水道・電気を同時に通す?共同溝(きょうどうこう)の役割と工事の実態
2025.7.17
日々の暮らしに欠かせないガス、水道、電気。
これらのインフラは、私たちが意識しないところで、都市の地下に張り巡らされています。しかし、それぞれが別々の場所に埋められているため、設備の修理や更新のたびに道路を掘り返す必要があり、交通や周辺環境に影響が出ることも少なくありません。
そうした問題を解決する方法として注目されているのが、「共同溝(きょうどうこう)」という仕組みです。共同溝とは、ガス管や水道管、電力・通信ケーブルなど、複数のインフラ設備をまとめて収容する地下のトンネルのこと。都市の道路下などに設けられ、工事の効率化や維持管理のしやすさにつながっています。
このコラムでは、共同溝がなぜ必要とされているのか、その基本的な役割から、実際の工事の流れ、導入事例、さらには今後の展望までをわかりやすく紹介していきます。日常生活を支えるインフラの裏側を、少しのぞいてみませんか。

共同溝とは何か?その仕組みと背景
ライフラインの交差点「共同溝」
「共同溝(きょうどうこう)」とは、都市の地下に設けられるトンネル状の空間で、ガス管・水道管・電力ケーブル・通信ケーブルといった複数のライフラインをまとめて通すための土木構造物です。これまで、インフラごとに別々に埋設されていた管路やケーブルは、それぞれが工事のたびに地面を掘削し、再埋設を行う必要がありました。しかしこの方法では、工事のたびに道路がふさがれ、交通の妨げになるだけでなく、施工コストや時間も膨大にかかっていました。
こうした問題を解決するために導入されたのが共同溝です。
一つの構造物の中に複数の管やケーブルをまとめることで、施工の効率化だけでなく、保守点検や改修工事の手間も大きく軽減されるのです。
なぜ共同溝が求められるのか?
共同溝が注目されるようになった背景には、いくつかの社会的・都市的課題があります。
まず一つは、繰り返される道路工事による市民生活への影響です。特に都市部では、何度も同じ道路を掘削してガスや水道、電気などの工事が行われることが日常的にあります。そのたびに渋滞が発生し、周辺の住民や店舗にとっては大きなストレスとなります。
また、地震や豪雨などの災害時、地下に分散して埋設されているインフラを迅速に確認・復旧することは困難を極めます。共同溝を活用すれば、アクセス性が格段に向上し、点検や応急復旧作業のスピードが大幅に向上します。とりわけ、災害に強い都市インフラを目指す自治体では、共同溝の整備が防災対策の一環として取り組まれています。
さらに、都市再開発やインフラの老朽化対策が進む中で、今後も継続的に必要となる工事に対して「一度の工事で長期的な効果を得る」方法としても、共同溝の価値は高まっています。
インフラの“見える化”と共同管理
共同溝のもう一つの大きな特徴は、インフラの“見える化”に貢献している点です。従来は道路の下に何が埋まっているのかが正確に把握できないケースも多く、予期せぬ配管との干渉で工事が止まるといったトラブルも少なくありませんでした。しかし、共同溝の内部は通路が設けられており、作業員が入って目視で確認できる設計になっているため、状況の把握が格段にしやすくなります。
また、電力・ガス・水道など、異なる事業者が共用する空間として整備されていることから、関係機関の連携も自然と促進され、情報共有や管理体制の強化にもつながります。
共同溝工事の基本と流れ
計画から施工までの一連の流れ
共同溝の整備は、一朝一夕にできるものではありません。都市インフラの中でも特に大規模で複雑な構造をもつため、工事の流れには段階的な慎重さが求められます。
まず初めに行われるのは、詳細な計画立案と地中の状況調査です。都市部では既にさまざまな配管やケーブルが埋設されており、それらと干渉しないようにルートを定める必要があります。
次に、地下埋設物の位置や構造を確認するための試掘・測量が行われます。これにより、想定していた経路に障害がないか、改めてチェックされます。問題がなければ、いよいよ掘削工事へと進みます。
共同溝の工事では、大規模な掘削とコンクリート構造物の構築が主な作業です。
道路を一部封鎖して行われるため、交通規制や騒音対策なども含めて、周囲への影響を最小限に抑える配慮が不可欠です。また、共同溝の内部には作業員が立ち入るための通路や設備点検用のスペースが設けられ、建設段階から精密な設計と確実な施工が求められます。
工事における現場のリアルな課題
共同溝の工事には、技術的にも運用的にも数多くの課題があります。
第一に挙げられるのが、工事のスペース確保です。都市部では土地利用が極めて密集しており、工事ヤードを確保するだけでも困難です。そのうえで、近隣への騒音・振動対策、安全確保など、現場管理の工夫が求められます。
また、複数のライフライン事業者が共同で利用するという性質上、設計段階でのすり合わせが非常に重要です。
たとえば、どの管路をどこに配置するか、点検口の数や位置、緊急時の対応方法まで、すべてが事前に綿密に調整される必要があります。こうした調整を怠ると、完成後の維持管理で支障が出る恐れもあるため、工事前の準備段階が成否を分ける重要な工程となるのです。
さらに、工事期間が長期にわたる点も特徴です。一般的な道路工事よりも施工範囲が広く、地下構造が複雑であるため、半年から数年単位で工期が設定されることも珍しくありません。このため、周辺地域の住民や事業者への情報共有や理解促進も不可欠です。工事に対する協力を得るためには、行政と連携し、説明会や広報活動をしっかり行うことが求められます。
導入と施工には高い専門性が必要
共同溝の建設には、高度な土木技術が求められます。たとえば、地盤の安定性を保ちながら長大なトンネルを掘り進める技術、耐震性の高いコンクリート構造の施工、地下水対策、既存インフラとの安全な接続方法など、専門的な知識と経験が不可欠です。
加えて、ICT施工やBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)といった最新技術の導入により、設計から工事、維持管理に至るまでの工程を一元的に管理する動きも活発化しています。これらの技術は、共同溝のような複雑なインフラ工事において、施工精度の向上やトラブル回避に大きな力を発揮します。
共同溝のメリットとデメリットを整理する
メリット1:インフラの一元管理が可能に
共同溝の最大の利点は、複数のライフラインを一つの空間にまとめて管理できることです。従来のように、水道・ガス・電気・通信がそれぞれ独立して埋設されていた場合、それぞれの事業者が個別に工事を行う必要がありました。そのたびに道路を掘り返し、交通を規制し、住民に迷惑をかけるという状況が繰り返されてきたのです。
しかし、共同溝を導入すれば、点検や修理の際にも地上を掘削する必要がなく、地下の専用空間からアクセスすることができます。これにより、工事の回数そのものを大幅に減らすことができ、インフラの維持・管理が非常に効率的になります。また、複数の事業者が同じ構造物を利用するため、点検スケジュールの調整や緊急対応なども迅速に行いやすくなります。
メリット2:災害に強く、都市機能の回復が早い
共同溝のもう一つの大きなメリットは、防災力の強化です。日本のように地震や豪雨の多い国では、インフラの損傷リスクが常に存在しています。共同溝は、コンクリートなどの強固な構造で守られており、災害時にも破損しにくい設計になっています。
仮に一部が損傷しても、内部に作業員が入れる構造となっているため、地上からアクセスせずに迅速に点検・修復作業を行うことが可能です。これは、災害直後のライフライン復旧において非常に大きなアドバンテージとなります。電力や通信が早期に回復することで、避難所の機能維持や被災者の支援にも貢献できるのです。
さらに、通信や電気のケーブルが地中化されることで、台風や倒木などによる停電リスクも軽減され、日常的な都市の安全性が高まります。
メリット3:長期的コストの削減
一見すると、共同溝の建設には莫大な費用がかかるように見えます。しかし、長期的に見れば工事の回数減少や管理費用の圧縮により、トータルコストの削減につながるケースも多く報告されています。特に再開発地区や将来のインフラ更新が見込まれるエリアでは、初期投資に見合う十分な効果が期待できます。
行政やインフラ事業者のあいだでも、近年は「ライフサイクルコスト」という観点でインフラ整備を考える動きが広がっており、共同溝のように一度の工事で将来の工事を減らせる仕組みは高く評価されています。
デメリット1:初期費用と工事期間の長さ
一方で、共同溝には課題もあります。その最たるものが、初期費用の高さと工事の長期化です。構造物自体が大きく、耐震・防水・換気などにも配慮する必要があるため、施工には高度な土木技術と相応の資金が求められます。また、複数の事業者との協議や法的調整も必要で、準備期間が長引くケースも少なくありません。
加えて、実際の工事が始まると、都市部では交通規制や住民対応が避けられず、工期が予想より長くなることもあります。このため、導入には慎重な計画と地域の理解が不可欠です。
デメリット2:維持管理のルールが複雑化することも
数のインフラ事業者が同じ空間を使うため、維持管理におけるルールづくりが複雑になることもあります。点検タイミングの調整、異常が発生した場合の責任範囲、共有スペースの使用ルールなど、細かい運用面での取り決めが必要です。これらを明確に定めないまま整備を進めてしまうと、のちにトラブルの原因となることがあります。
導入事例から見る共同溝の効果
都市部での先進事例―東京・名古屋・大阪の取り組み
共同溝は、特に大都市圏で先行的に導入が進められてきました。なかでも注目されるのが、東京都心部に整備された「山手通り共同溝」です。この共同溝は、延長十数キロにも及ぶ規模を持ち、電力、通信、ガス、地域冷暖房管などが一つのトンネル内で整然と配置されています。
この整備により、都心で頻発していた道路の掘り返し工事が大幅に減少しました。これまで個別に実施されていたインフラ工事が、共同溝の中で対応できるようになったことで、道路交通の混乱が大幅に緩和されたのです。また、災害時にも点検口から内部にアクセスできるため、緊急対応が迅速に行われるようになりました。
名古屋市では、再開発地区である「ささしまライブ24」エリアに共同溝が整備されました。このエリアでは、環境や景観に配慮した都市づくりが進められており、インフラの地中化はその中心的な柱となっています。共同溝の導入によって、周辺の都市景観が向上し、歩行者空間の快適性も大きく改善されました。
大阪市でも、梅田エリアや御堂筋沿いで共同溝の整備が進んでおり、老朽インフラの更新にあわせて、長期的な視点での再整備が実現されています。
導入による変化―工事負担の軽減と住民満足度の向上
これらの都市での導入事例を通して、共同溝がもたらす具体的な効果が浮き彫りになっています。まず、繰り返されていた道路工事の頻度が明らかに減ったことで、住民からの苦情や不満も減少しています。騒音や振動によるストレスが減るだけでなく、商業施設や事業者にとっても、営業への影響が少なくなるというメリットがあります。
また、共同溝によってインフラの維持管理が効率化された結果、点検や修繕にかかるコストも軽減されました。従来であれば数日かかっていた配管交換やケーブル修理が、共同溝内で完結することで短期間で済むようになり、工期の短縮も実現されています。
さらに、都市の景観改善という側面でも効果が見られます。電線や通信ケーブルが地中化されたことにより、上空の視界がすっきりとし、街並みに一体感が生まれました。これは観光地や再開発エリアにおいて、大きな価値を持つポイントとなっています。
地方都市でも始まる共同溝の波
これまで大都市が中心だった共同溝の整備ですが、近年では地方都市にもその波が広がり始めています。
たとえば、熊本市や富山市などでは、防災や都市美観の観点から共同溝の導入が検討・実施されています。地方では大規模な導入こそ少ないものの、将来の工事負担軽減や維持コスト削減を見越したインフラ戦略として注目されています。
また、地方自治体では国の補助制度を活用して共同溝の工事費用を抑える取り組みも増えています。これにより、限られた財政の中でも持続可能なインフラ整備が可能となり、長期的なまちづくりの基盤となると期待されています。
これからの共同溝と土木工事の未来
スマートインフラとの融合が進む共同溝
近年、インフラ分野にもデジタル化の波が押し寄せており、共同溝の管理にもさまざまな先端技術が導入され始めています。
その一つが、センサー技術やIoT(モノのインターネット)を活用した遠隔モニタリングです。共同溝の内部に温度・湿度・振動・漏水などを感知するセンサーを設置することで、異常の兆候をリアルタイムで把握できるようになります。
これにより、従来は定期点検によってしか確認できなかった問題が、早期に発見・対応可能となり、工事の必要性を事前に把握して計画的に対応することができるようになります。将来的にはAIによる自動診断や、AR技術を使った可視化点検なども実用化が期待されています。
さらに、BIM/CIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング/コンストラクション・インフォメーション・モデリング)といった3Dデータによる設計・施工・管理の一元化が進めば、共同溝工事の全工程をデジタル空間でシミュレーション可能になります。これにより、工期短縮やコスト削減、トラブル回避といった効果が見込まれ、土木工事全体の効率化が実現していくでしょう。
地方都市への普及と制度的な後押し
共同溝はこれまで、主に都市部の再開発や大規模幹線道路沿いでの整備が中心でした。しかし今後は、地方都市や中規模都市への普及が重要なテーマとなっていきます。人口減少や財政制約に直面する地域では、いかに将来の維持管理コストを抑えつつ、インフラの安全性を保つかが課題となっています。
共同溝を整備することで、将来的に何度も掘り返すことなくインフラの更新が行えるため、長期的な財政負担の軽減が期待されます。特に災害リスクの高い地域では、迅速な復旧を可能にする共同溝のメリットは大きく、地域防災力の底上げにもつながるのです。
国もこの動きを後押ししています。国土交通省では、共同溝整備に対する補助金制度や技術ガイドラインの整備を通じて、地方自治体や民間事業者の導入を促進しています。また、都市計画法や道路法の改正により、共同溝の整備を前提とした都市設計が可能となりつつあります。
土木工事の担い手不足と共同溝の可能性
将来的に避けられない課題の一つが、土木工事を担う人材の不足です。現場の高齢化が進む中で、限られた人数でいかに効率よくインフラを維持管理していくかが問われています。こうした背景において、共同溝は“少ない工事で多くをまかなえる”という点で、非常に相性のよいインフラ形式といえます。
また、共同溝を整備することで、将来の工事のたびに人手を大量に確保する必要がなくなり、継続的な人材不足にも対応しやすくなります。加えて、点検・修繕業務も地下空間内で安全かつ効率的に行えるため、女性や若手、未経験者でも参加しやすい作業環境が整備される可能性も広がっています。
つまり、共同溝は単なるインフラ整備にとどまらず、土木業界全体の働き方改革や担い手確保にもつながる、未来志向の取り組みでもあるのです。
まとめ
共同溝は、ガス・水道・電気・通信といった複数のライフラインを一元的に管理することで、都市機能の維持と効率的な運用を実現するインフラ技術です。
これまでバラバラに埋設されていたインフラをまとめて整備することで、繰り返される道路工事の負担を減らし、点検や修繕の迅速化、そして災害時の対応力強化を図ることが可能になります。
実際に導入されている都市では、交通渋滞の緩和や住民満足度の向上といった成果が出ており、共同溝がもたらす効果は着実に実証されています。さらに、今後はセンサーやデジタル技術と連携したスマートな管理が進み、より高度で持続可能なインフラの姿が期待されています。
もちろん、初期投資や工事期間の長さといった課題はありますが、それを上回る長期的なメリットが存在します。将来のまちづくりやインフラ戦略を考えるうえで、共同溝は欠かせない選択肢の一つと言えるでしょう。これからの都市や地域が、どのように共同溝を取り入れ、工事を進めていくのか。私たちの生活を支えるインフラの未来は、ここからさらに進化していくはずです。
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