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#土木の未来を考える

土木が支える地域活性化。インフラ整備がもたらす始まる地方創生のかたち

土木が支える地域活性化。インフラ整備がもたらす始まる地方創生のかたち

地方が抱える人口減少や高齢化、産業の衰退といった課題。それらに真正面から向き合う手段として、「地方創生」というキーワードが注目されています。そして、その土台を支えるのが「インフラ整備」です。道路や上下水道、通信・電力ネットワークなど、地域に不可欠な土木インフラがあるからこそ、新しい産業や暮らしの基盤が築かれていきます

本コラムでは、土木が果たす役割や実際の整備事例を紹介しながら、インフラと地域の未来との関係を考察していきます。

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地方創生とは何か ― 背景と目的

地方創生が求められる時代的背景とは

少子高齢化と東京一極集中。これらは現代日本が直面している深刻な課題です。若者の進学や就職による都市部への流出が止まらず、地方では人口減少が進み、空き家や耕作放棄地が増加しています。結果として、地域の経済活動は縮小し、公共サービスの維持すら困難になりつつあります。

こうした中で誕生したのが「地方創生」という政策概念です。これは単なる人口対策にとどまらず、地域ごとの個性や強みを活かしながら持続可能な社会を築いていこうという取り組みです。全国ではすでに数多くの地方創生事例が生まれており、成功と失敗を重ねながら地域の未来が模索されています。

観光、農業、産業、教育など、あらゆる分野にまたがる地方創生ですが、その“土台”として欠かせないのがインフラ整備です。インフラの基盤があるからこそ、地域資源を活かした取り組みや事例が現実のものとなっていくのです

インフラ整備と地域のポテンシャルの関係

地方創生を加速させるには、インフラの整備が重要です。道路が整えば観光客が訪れやすくなり、物流が改善されれば地場産業の販路が拡大します。上下水道の整備によって衛生環境が向上すれば、高齢者や子育て世代の定住にもつながるでしょう。さらには、情報インフラの充実によって都市からのテレワーカーを受け入れる地域も増えています。

このように、インフラ整備は地域の可能性を引き出す“触媒”であり、その整備には土木の知見が不可欠です。地盤や気候、地形などが地域ごとに異なる中で、最適な方法でインフラを築き上げるには、まさに地域に根ざした土木の力が必要とされます。地方創生を実現するための鍵は、現場を知る土木とインフラの融合にあるのです

キーワードだけに終わらせない「地方創生」の本質

地方創生」という言葉が社会に定着しつつある一方で、実態がともなわない“スローガン先行”の施策も少なくありません。重要なのは、表面的な開発ではなく、実際に人々の生活が変わり、地域が活性化していく変化を生むことです。

そのためには、単にハコモノを建てるのではなく、住民や事業者、行政、土木の専門家が一体となり、地域にとって本当に必要な整備とは何かを見極めるプロセスが求められます。たとえば「災害に強いまちづくり」「移住者の受け入れ環境の整備」「地域資源を生かした交通ネットワーク」など、全国の自治体では地域の課題に応じた地方創生の実践事例が進行中です。

こうした一つひとつの事例の積み重ねこそが、真の地方創生へとつながっていきますそして、それを支えるのは目立たないけれど着実な整備の積み重ねであり、地域に根差した土木の実践なのです

インフラ整備が生む地域の価値

人・モノ・情報の流れをつくるインフラの力

地方創生のために、インフラ整備が果たす役割は極めて大きいです。どれほど地域資源が豊かでも、そこにアクセスできなければ人は訪れず、モノも動かず、情報すら届きません。道路や鉄道といった交通インフラは、地域と外部との接点を生み出し、観光や産業の基盤となります。

たとえば観光地へのアクセス道路の整備によって、年間の来訪者数が大きく伸びた事例が各地で報告されています。そんな地方創生の事例は数多くあがってきています。インフラとは、経済活動を呼び込む“見えない導線”であり、地域の再生を後押しする重要なファクターなのです

また、物流インフラの充実によって、地方の農産物や工芸品が都市部や海外に販路を持つようになれば、地場産業の活性化にもつながります。こうした波及効果は、一度インフラが整えば何年にもわたって地域経済に貢献し続ける点でも、地方創生にとって極めて重要な視点といえるでしょう。

住環境の整備が生む定住と移住の促進

インフラは産業面だけでなく、人々の暮らしを支えるうえでも不可欠です。上下水道や電力、通信網の整備が進んでいなければ、いくら自然豊かな地域であっても、暮らすには不安が残ります。近年では、「災害に強い住まい」や「リモートワークが可能な通信環境」など、住環境に対するニーズが多様化しています。

実際、上下水道の整備とあわせて防災インフラを強化した地域で、若年層や子育て世代の移住が進んだ成功事例もあります。安全で快適に暮らせることは、移住促進や地域内の定住意欲を高めるうえでの重要な要素であり、地方創生に直結する効果を生んでいます

地域に根ざす整備の積み重ねが信頼を生む

インフラ整備は単なる開発行為ではありません。それは、地域の課題と真正面から向き合い、人々の声を聞きながら一つひとつ形にしていく“対話のプロセス”でもあります。住民の声に耳を傾け、将来の姿を描きながら進められる整備だからこそ、その地域の信頼を得て、持続的な発展につながっていくのです

地域の土木事業者や自治体と住民が連携して小規模な改善を重ねた身近な事例も数多く存在します。たとえば通学路の歩道整備や避難路の確保といったプロジェクト事例が、地域全体の安心感や絆を深める結果となり、結果として地方創生を下支えする力となっています。

実際の事例に見る、整備がもたらした変化

観光地の再生につながった道路整備事例(大分県由布市)

大分県由布市は、「湯布院温泉」などで知られる観光地です。しかし、一時は交通アクセスの不便さから観光客の減少が懸念されていました。近年、県と市が協力してアクセス道路の整備や駅前周辺の景観改善を進めた結果、利便性が向上し、観光客の回復傾向が見られるようになりました。

特に、由布院駅から人気スポットへのアクセス改善やバス導線の見直しなど、小規模ながら着実な整備が行われたことで、観光施設の再整備やカフェ・物販店の出店が相次ぎました(※大分県地域振興局資料より)。こうした地方創生を意識したインフラ整備の事例は、観光とまちづくりを結びつける好例といえるでしょう。

復興インフラが新たな産業を育てた事例(宮城県南三陸町)

東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県南三陸町では、災害からの復旧とあわせて「未来につながる整備」が行われました。防潮堤高台移転といったハード面のインフラ整備はもちろん、災害時の避難経路や防災広場の確保など、地域住民の声を反映した空間づくりが進められています。

特筆すべきは、整備と同時に「南三陸さんさん商店街」などの交流施設が設けられたこと。この施設は単なる商業スペースではなく、観光客と地域住民の交流の場として機能しています。地方創生の観点からも、このようなインフラとコミュニティを両立させた事例は大変貴重であり、他地域のモデルともなっています。
この事例は、「復興=新たな価値を創る」という視点に立った地方創生の実践でもあります。

テレワーク移住を実現したICTインフラ整備の事例(高知県嶺北地域)

高知県の山間部に位置する嶺北エリアでは、情報通信インフラの未整備が長年の課題でした。県はこれをテレワーク移住や地域産業のデジタル化につなげるべく、光ファイバー網の整備を段階的に進めてきました。

大豊町や本山町などでは、通信環境の整備とともに空き家バンクサテライトオフィスの支援が進み、都市部からの移住者によるテレワークの成功事例が報告されています(※高知県資料より)。特に、家庭向け高速通信の導入と企業連携によるワークプレイスの整備は、地方創生のためのICT利活用先進事例とされています。
こうしたICTインフラを軸とした地方創生の実践事例は、人口減少が著しい中山間地域において、持続可能な集落のあり方を模索する重要な取り組みといえるでしょう。

小さな整備の積み重ねが地域を動かす

これらの実践事例に共通するのは、インフラ整備が単体で完結するのではなく、地域資源や人の動きと連動して効果を発揮しているという点です。整備の対象が道路であれ、通信であれ、それが地域の課題解決や価値向上と結びついているからこそ、地方創生の核となり得るのです

また、全国にはまだ可視化されていない多くの草の根レベルの整備事例が存在します。たとえば農業用水路の改修をきっかけに地元住民が共同作業を始めた住民主導型の事例、廃校を改装して地域交流拠点とした複合型整備の事例など、地域の工夫と土木の技術が融合した取り組みは今もなお増え続けています。こうした事例の積み重ねが、地方創生の流れを確実に前進させているのです。

インフラ整備の担い手としての土木の現在地

地域密着型の土木事業者と自治体の連携

インフラ整備というと、大規模な工事を思い浮かべるかもしれませんが、実際には日々の暮らしを支える小さな整備こそが、地域にとって重要なインフラの柱です。たとえば通学路のガードレール、農業用水路の修繕、集落間を結ぶ生活道路の舗装など、こうした細やかなインフラ整備が地域の安心と活力を生んでいます。
このような整備を担っているのは、大手企業だけではありません。多くの場合、地域に根ざした土木事業者や中小の建設会社が、自治体と密に連携しながら長年インフラを支えてきました。地方創生においては、こうした現場レベルの連携が欠かせません。

たとえば岐阜県のある町では、地元企業と自治体が協力して老朽橋の修繕に取り組み、通学ルートの安全性が向上。結果的に小中学校の存続にもつながったという地方創生の事例があります。こうしたケースは、表に出にくいながらも地域に深く根を張った重要な実践事例といえるでしょう。

合意形成と住民参加が成功の鍵

近年のインフラ整備では、住民との協働がより重要視されるようになってきました。かつての「上から与える整備」ではなく、「住民と一緒につくる整備」へと考え方がシフトしています。地域課題を見極め、行政・技術者・住民がともに解決策を探るプロセスこそ、持続可能な整備の鍵といえるのです。

地方創生の実現には、整備の質だけでなくプロセスの透明性や住民の納得感が重要です。土木は単なる工事だけでなく、地域の声をかたちにする役割も担っています。

持続可能な整備を支える人材と技術の進化

整備の現場では、人手不足高齢化といった課題も深刻化しています。その中で注目されているのが、ICTドローンセンサーなどの技術を活用したスマート土木の実践です。たとえば山間部の道路で地滑りリスクを監視するセンサーや、橋梁点検を効率化するドローンの導入など、全国でさまざまな先進事例が生まれています。

これらの技術革新は、限られた人材で高い品質を保つための手段であると同時に、地方創生を支える基盤としても期待されています。メンテナンスの効率化、コスト削減、安全性向上など、多角的な効果が見込まれ、今後の整備のあり方そのものを変えつつあります

こうした技術を使いこなし、地域にフィットしたかたちで展開できる土木技術者の育成が、地方創生の未来を握る重要なカギとなるでしょう。

これからのインフラ整備と土木の役割

デジタル田園都市構想と土木の新たな可能性

国が掲げる「デジタル田園都市国家構想」は、ICTやデジタル技術を活用して地方の活性化を図る、現代型の地方創生戦略です。高速通信網の整備や自治体業務のデジタル化、遠隔教育やテレワーク環境の充実など、整備の対象はますます多様化しています。

このような最先端の取り組みを支えているのが、進化し続ける土木の力です。たとえば、BIM/CIMを導入した道路工事や、災害時にセンサーで橋梁の損傷を即時検知するシステムの導入など、全国で数々のスマート整備の事例が生まれています。

これらの技術が地域に導入されることで、単に利便性が高まるだけでなく、都市との格差が埋まり、持続可能な地方創生の土台が強化されていくのです

環境と共生するインフラ整備へ

これからの整備には、経済性だけでなく環境との調和という観点も欠かせません。とくに自然と隣り合わせで暮らす地方においては、「壊さず活かす」整備こそが求められています。国土交通省も推進する「グリーンインフラ」はその代表例で、自然の力を活かしながら災害にも強く、美しい景観を保つ整備が各地で進められています

たとえば、雨水を浸透させる透水性舗装を導入した公園整備や、流域治水と景観づくりを両立させた河川改修など、環境共生型の整備事例が注目を集めています。こうした取り組みは、観光資源としての価値や住民の満足度向上にもつながっており、まさに多面的な地方創生の実践例といえるでしょう。
このように、土木は単なる構造物の構築にとどまらず、自然との関係を再構築する担い手へと進化しています

持続可能な整備を支える人材と地域の連携

未来の地方創生を実現するには、人と人のつながりも不可欠です。全国の自治体では、若手土木技術者の育成や、地域住民と専門家の協働による整備計画づくりなど、多様な地域主体型の整備事例が増えています。こうした現場では、「つくる」だけでなく、「どう使い、どう守るか」という視点が共有されている点が特徴です。

たとえば、北海道のある町では、道路の除雪計画を地域住民と一緒に考えるワークショップを開催し、維持コストの削減と満足度の向上を両立することに成功しました。このような共創型整備の事例は、今後ますます増えていくと考えられます。

技術革新とともに、人材育成と地域参加を組み合わせることで、土木はより柔軟で開かれた存在へと進化します地方創生の本質は、こうした“地域を信じる力”に支えられているのかもしれません

まとめ

地方創生は、一朝一夕で成果が出るものではありません。人口減少や産業の空洞化といった複雑な課題に向き合いながら、地域が持続的に成長していくためには、時間と手間、そして地道な取り組みが必要です。そうした歩みを支えるのが、インフラ整備という土台であり、それを担う土木の存在です。

本コラムで紹介してきたように、各地でインフラ整備を通じた地方創生の実践事例が数多く生まれています。また、道路や上下水道、情報通信網の整備は、単なる建設工事ではありませんそれは人と人をつなぎ、地域の可能性を引き出し、新たな事業や暮らしの形を育てる「未来づくりの装置」ともいえるのです。実際に各地では、地域に根差した整備の事例が数多く生まれ、観光、産業、福祉、教育といった多方面に波及効果をもたらしています。

これからの土木は、より柔軟に、より持続可能に、地域と共に成長していく存在でなければなりません。技術の進化とともに、地域住民との対話や協働の姿勢がますます重要になっていきます。土木が果たすべき役割は、今後さらに多様化するでしょう。地方創生の歩みの中で、土木はこれからも静かに、しかし確実に、その使命を果たしていきます。

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