COLUMN

#土木のキホン

壊さず直す時代へ|管更生工事と非開削工法の基礎知識

壊さず直す時代へ|管更生工事と非開削工法の基礎知識

都市の地下には、長年にわたって使われ続けてきた上下水道ガス管といったライフラインが網の目のように張り巡らされています。多くは高度経済成長期に整備されたもので、今やその多くが老朽化の時期を迎えています。しかし、すべてを新しく入れ替えるには、時間も費用も膨大です。そうした中、既存の管を壊さずに再生する管更生工事が注目されるようになりました。特に地表を掘り返さずに済む非開削工法は、交通や生活への影響を最小限にとどめながら工事ができる技術として脚光を浴びています。

本コラムでは、この新たな維持管理のアプローチである管更生工事非開削工法について、基礎から丁寧にひもといていきます。

能力開発校

なぜいま管更生工事が注目されるのか

インフラ老朽化と修繕のジレンマ

いま、日本各地の都市インフラが大きな岐路に立たされています。高度経済成長期に集中的に整備された上下水道ガス管などのライフラインは、すでに多くが耐用年数を過ぎ、老朽化が進行しています。放置すれば漏水や陥没、ガス漏れといった事故の原因となり、市民生活に重大な影響を及ぼす可能性もあります

では、老朽化した管路をすべて撤去して新設すればよいかというと、そう単純ではありません。開削による大規模な工事には多くの時間コストがかかるうえ、道路交通の制限周辺住民への影響も避けられません。掘削中の粉じんや騒音、交通渋滞など、工事が地域社会に与える負担は決して小さくないのです。

こうしたジレンマの中で登場したのが、管更生工事という選択肢です。これは、既存の管をそのまま活かしながら、内側を補強・再生することで機能を回復させる技術であり、「壊すことを前提にしない修繕」が可能となります。更新に比べて施工コストを抑えやすく、ライフラインを止めずに作業できるケースも多いため、管更生工事は維持管理の手段として広がりを見せています。

管更生工事が切り開く持続可能な選択肢

こうした管更生工事の可能性をさらに広げるのが、非開削工法の導入です。地表を大きく掘らずに管内へアクセスできるこの非開削工法は、交通への影響や周辺環境への負担を大幅に軽減しながら、迅速な施工を可能にします。特に市街地や商業エリアでは、非開削工法による工事が地域住民や事業者から歓迎される傾向にあります。

また、非開削工法を活用した管更生工事は、災害時の応急対応やインフラの早期復旧にも有効です。被害を受けた地下管路に対して掘削を最小限にとどめ、短期間で機能を再生させる技術として、各自治体の防災計画にも組み込まれ始めています。

加えて、人口減少高齢化が進むなか、労働力不足を背景に施工効率を求める声も強まっています。熟練作業員が減少する中、非開削工法と管更生工事を組み合わせることで、現場の負担軽減と省力化を同時に実現できるという利点が注目されているのです
インフラ更新に求められるのは、単に「直す」ことではなく、「生活や経済を止めない形で直す」こと。その答えのひとつが、いま確実に広がりつつある管更生工事と非開削工法の融合にあるといえるでしょう。

管更生工事とは?基本のしくみを知る

配管を“再生”する発想がインフラを救う

管更生工事とは、既設の地中管路を撤去せず、その内側に新しい構造を形成して、機能や強度を回復させる技術です。老朽化による腐食や破損があっても、外側の地盤や構造物が健全であれば、全面的な交換をせずに長寿命化を実現できるのが特長です
この管更生工事は、上下水道やガス管、さらには工業用水管など、多くのインフラで活用されています。特に都市部では、地下に複雑に張り巡らされた管路の更新が困難であるため、開削を避けて機能を回復できる手段として極めて実用的です。

また、近年の行政や民間事業者のあいだでは、従来の「壊して更新する」方式から、「延命・再生による効率的な更新」へと方針を転換する流れが見られます。そこにおいて、管更生工事はコスト・環境・施工スピードのすべてにおいて高く評価されており、管更生工事維持管理の新たなスタンダードとして位置付けられつつあります。

マンホールや既存の点検口から作業機器を挿入し、地表を掘らずに内部処理を進められる点も、管更生工事の強みです。特に非開削工法と組み合わせることで、工期の短縮、交通への影響低減、周辺住民への配慮といった社会的な要請にも応えやすくなります

代表的な管更生工法の種類と選定基準

管更生工事にはいくつかの方式がありますが、現場で多く使われているのが「反転工法」と「さや管工法(スリップライニング)」です。どちらも既設管を壊さずに内側から機能を再生する方法で、施工条件や目的に応じて使い分けられています。

  • 反転工法
     柔軟なライナー材を裏返しながら既設管内に挿入し、熱や紫外線で硬化させて新たな内面を形成する工法です。曲がりのある管路にも対応しやすく、水密性・耐久性に優れているため、下水道や排水管の再生に多く用いられています。
  • さや管工法
     既設管内にやや小さめの新しい管を挿入し、隙間を充填材で固定する方法です。施工が比較的簡単で構造的な補強にもなりますが、内径が小さくなるため、流量への影響を考慮する必要があります。

工法の選定にあたっては、既設管の損傷状況、地形、施工スペース、流量要求など多くの条件を総合的に判断します。コストや耐用年数、周辺環境への影響も考慮し、現場に最も適した工法を選ぶことが、確実なインフラ再生への第一歩となります

非開削工法の種類と特徴

掘らずに進む技術、非開削工法とは

非開削工法とは、地表を大きく掘削することなく、地下に埋設された配管や構造物を施工・修繕・更生できる技術の総称です。従来の開削工法と比べて、工期が短く、周辺環境への影響も小さいことから、都市部を中心に広く活用されています

特に交通量の多い道路や鉄道、河川の下など、地表の掘削が困難な場所では、非開削工法の優位性が際立ちます。道路を封鎖せずに施工を完了できるため、住民生活や物流への影響を最小限に抑えられるのです。
また、騒音や振動が少ないという点も、非開削工法の重要な利点です。住宅街や商業施設の近隣など、施工の配慮が求められるエリアでも導入しやすく、非開削工法は、環境負荷の低減と施工効率の両立を実現する工法として評価されています
近年では、非開削工法を前提とした設計や発注が増えており、単なる応用技術ではなく、維持管理の中核を担う存在へと変化しつつあります。

工法の種類と使い分けの考え方

非開削工法には複数の方式がありますが、代表的なものとして「推進工法」と「シールド工法」が挙げられます。いずれも地表を大きく掘削せず、地下で配管や構造物を設置・更新できるのが特長です。

  • 推進工法:立坑から掘進機を使って地中を掘り進め、管を押し込んでいく方式です。比較的直線的なルートで短距離の敷設に向いており、下水道やガス管などで広く使われています。
  • シールド工法:円筒形のシールドマシンで掘削しながら後方でトンネルを構築していく方法で、大口径・長距離の施工に適しています。都市部の地下鉄や幹線インフラで多用されています。

これらの工法は、地質条件や施工深度、地下水の有無、敷設ルートの形状などを総合的に判断して選定されます。非開削工法は今後ますます重要性が高まり、老朽インフラの再生や災害復旧の分野でも活躍が期待されています

環境・社会にやさしい非開削工法のメリット

工事による“迷惑”を減らすという発想

インフラの維持管理は、市民の生活を支えるうえで欠かせないものですが、工事に伴う騒音交通規制粉じんなどが周辺住民にストレスを与えることも少なくありません。とくに都市部では、こうした工事による影響が生活の質に直結します。
この点で、非開削工法は「迷惑をかけないインフラ整備」を実現する手段として注目されています。大規模な掘削を伴わず、マンホールや点検口からの作業で完結できるため、交通渋滞や通行止めの必要が最小限に抑えられます。住宅街や商業エリア、学校や病院の近隣でも導入しやすく、市民生活との共存を前提とした施工方法といえるでしょう。

さらに、非開削工法は施工エリアがコンパクトで済むことから、周辺の店舗営業や地域イベント、緊急車両の通行などへの影響も最小限で済みます。特に観光地や商業施設の密集地では、従来の開削工事よりもはるかに好意的に受け入れられています。
こうした「静かに終わる工事」は、単に便利というだけでなく、社会との摩擦を最小限に抑える持続可能なインフラ管理として位置づけられつつあります

環境負荷の軽減とSDGsへの貢献

非開削工法の魅力は、社会的配慮だけにとどまりません。環境面でもその価値は非常に高く、持続可能な開発を実現する技術としての期待が寄せられています

まず、掘削を抑えることで発生する建設残土が大幅に減少します。これにより、産業廃棄物の処理に伴うエネルギー消費CO₂排出を抑えられ、地球環境への負荷が軽減されます。また、掘削用機械の稼働が少ない分、燃料使用量騒音・振動も抑制されます。工事現場でのダンプカーの出入り回数が減ることも、周辺環境にとって大きな利点です。

こうした特徴は、SDGs(持続可能な開発目標)の達成にも大きく貢献します。「住み続けられるまちづくりを」「インフラを強靭に」「気候変動への対策を」といった目標の実現に対し、非開削工法は実際的かつ現場に根差したアプローチを提供しています。

さらに、管更生工事との組み合わせによって、更新コストの抑制と環境対策を同時に実現できる点も魅力です。環境配慮型の設計思想が重視される現代において、非開削工法は、単なる施工技術にとどまらず、社会全体の価値観に応えるインフラ更新手法として広がりを見せています
今後のまちづくりでは、「工事の影響をいかに減らせるか」が重要な評価基準になります。その中で、非開削工法はこれからの標準技術となり、社会と環境の両立を支える役割を担っていくことでしょう

管更生工事の課題と限界

すべての現場に適用できるわけではない

管更生工事は非常に実用性の高いインフラ更新技術ですが、どの現場にも万能に適用できるわけではありません。最大の制約は、既設管の状態に応じた施工の可否です。たとえば、管の変形が著しかったり、内部が崩落していたりする場合は、更生材の挿入や密着が困難となり、効果的な補修ができません。

また、管の材質や口径、設置環境によっては、使用できる更生工法が限られることもあります。異種素材が接続されていたり、管内に堆積物が多かったりする場合には、前処理や特殊な施工対応が必要になるケースも多く、結果として工期やコストがかさむことがあります。
地盤の状態も重要な判断要素です。たとえば、周囲に空洞が生じている場合や、地盤沈下の兆候がある場合は、管更生工事そのものよりも基礎的な補強が優先されることになります。非開削工法と組み合わせた工事であっても、地盤条件次第では対応が難しい現場も依然として存在します。

このように、管更生工事の適用には、施工前の調査と評価が不可欠です現場の状況に応じて「できる/できない」を明確に見極める判断力が求められます

技術的・制度的な課題と今後の対応

技術的な側面においても、管更生工事の信頼性をどう確保するかという点は重要です。たとえば、光硬化ライナーの照射が不十分だった場合、硬化不良による強度不足や密着不良といった問題が発生するおそれがあります。こうしたリスクを回避するには、材料や施工機器の性能だけでなく、作業者の技術力や現場管理体制の充実が求められます

しかしながら、建設業界では高齢化人材不足が深刻化しており、管更生工事に特化した熟練技術者の育成が間に合っていないという現実もあります。新たな工法が導入されても、それを正確に使いこなす人材が不足していては、本来の効果を十分に発揮できません

制度面でも課題があります。現在のところ、管更生材の長期耐久性や施工後の性能評価について、全国的に統一された基準がまだ十分とはいえません。そのため、自治体や発注機関ごとに設計基準が異なるケースも多く、発注者側の理解不足によって工法選定が不適切になる例も見られます。

これらの課題に対しては、教育・研修の強化やガイドラインの整備施工実績の公開といった多面的な取り組みが求められます。施工データの蓄積と分析を通じて、管更生工事に関する信頼性と透明性を高めることが、今後の普及促進には不可欠です。
管更生工事は、適用条件を正しく把握し、適切に使われてこそ価値を発揮する技術です。そのためには技術者・設計者・発注者の間で共通理解を深め、施工の質を安定させる体制づくりが急務といえるでしょう

未来を見据えた技術革新と今後の展望

ICT・AIと融合する次世代インフラ維持管理

インフラの長寿命化維持管理の効率化を実現するためには、管更生工事や非開削工法といった施工技術に加え、それらを支える情報技術の進化が不可欠です。近年では、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)を活用した施工支援システムの導入が進んでおり、現場の作業品質と効率を大きく向上させています。

たとえば、地下管路の調査では、ロボットカメラや3Dスキャナーによる詳細な映像記録が標準化しつつあります。これらのデータをAIが解析し、ひび割れや腐食の進行度を自動判定することで、従来の経験値に頼る点検手法から脱却しつつあります。結果として、管更生工事の判断精度や計画立案のスピードが格段に高まっています

さらに、施工現場では、GPS地中センサーを活用した高精度な位置管理が可能となり、掘進機の制御もリアルタイムで行えるようになっています。非開削工法においても、進行ルートの自動補正や障害物の早期発見など、ICTによるサポートが施工ミスの低減につながっています
これらの技術革新により、熟練作業員の経験に頼らずとも高品質な施工が実現できる体制が整いつつあり、人材不足の課題を補う有効な手段として期待が高まっています。

社会実装と未来のインフラ戦略

すでに全国の自治体やインフラ運営事業者の間では、非開削工法による更新計画が多数採用されています。特に都市部では、交通規制を最小限に抑えつつ下水道や通信管路の更新を実現する事例が増えており、市民からの理解や評価も高まりつつあります。

今後は、管材そのものにセンサーを内蔵した「スマートパイプ」の導入も視野に入っています。水圧、流量、温度などの情報を常時モニタリングし、異常を検知すればリアルタイムでアラートを発する仕組みです。これにより、劣化漏水を未然に把握し、予測型の管更生工事や計画的メンテナンスが実現可能となります。

また、国土交通省や業界団体による技術基準の整備や、設計段階から非開削工法を前提としたガイドラインの策定も進行中です。こうした制度面の後押しによって、非開削によるインフラ更新はますます身近な選択肢となっていくでしょう

これからの社会においては、「いかに壊さず、効率よく、永く使い続けられるか」がインフラ設計の鍵となります。管更生工事と非開削工法は、持続可能性・環境配慮・経済合理性を兼ね備えた“次世代のインフラ更新手法として、今後ますます重みを増していくに違いありません

まとめ

これまでのインフラ整備では、「老朽化したら壊して新しくする」という考え方が当たり前でした。しかし、人口減少や財政制約、環境問題が深刻化する現代において、その方法は限界を迎えつつあります。そうしたなかで登場したのが、既存の構造物を壊さずに再生する管更生工事という選択肢です。

管更生工事は、老朽化した管の内部に新たな構造を形成し、機能と強度を回復させる技術です特に非開削工法と組み合わせることで、交通や周辺環境への影響を最小限に抑えつつ、安全かつ迅速な施工を可能にしています。こうした特性は、都市部のライフライン更新において非常に有効であり、すでに多くの現場で実績を重ねています。

もちろん、すべての現場に適用できるわけではなく、地盤や構造条件、人材や制度の面で課題も残されています。しかし、ICTAIといった技術との連携が進む中で、これらの工法はさらに進化し、予測型の維持管理やスマートインフラ構築の基盤となっていくでしょう。
“壊してつくる”時代から、“活かして守る”時代へ
これからのインフラは、持続可能性と柔軟性を兼ね備えた新しいアプローチが求められています。管更生工事と非開削工法は、その変化を支える中心技術として、未来の社会を静かに、力強く支えていくのです。

SSFホールディングスの能力開発校ADSでは、次世代の土木技術者を育成します。現場で活躍できる人材の輩出を通じて、業界全体の発展に貢献いたします。職場見学も受け付けておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

能力開発校

こちらの記事もオススメです